karajanjanの日記

カラヤンについて語りましょう

カラヤン&ベルリン・フィルがNO.1

遅ればせながら、本年も宜しくお願い致します。

 

♩どの演奏が好きかアンケート調査♩

 

高校生にアンケートをする機会があったので、複数の指揮者・楽団で、ベートーヴェン交響曲第5番「運命」の1楽章の途中までを聴いてもらい、どの演奏が良かったかを無記名で答えてもらいました。

 

アンケートというと、答えてもらった母体数が適切か、選ばせる選択肢に正当性があるのか、部分的に聴かせるのは適切か‥‥と、アンケートを実施する定義から考えなくてはいけないのでしょうが、そんなおかたいものではないので、軽く読み流してください。この結果が絶対的というものではありませんので。

 

聴いてもらった演奏は

1.バーンスタイン指揮&ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1977年)(映像)

2.カラヤン指揮&ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1982年)(映像)

3.小澤征爾指揮&NHK交響楽団(2005年)(映像)

4.フルトヴェングラー指揮&ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1947年)CD

5.朝比奈隆指揮&大阪フィルハーモニー交響楽団(1992年)CD

 

です。映像とCDではだいぶ印象が変わってしまうかもしれませんが、お許しください。

もっと他の指揮者もとお思いの方もいらっしゃるでしょうが、ご勘弁を。

 

これらを聴いて(観て)、どの演奏がどんな理由で一番良かったかを無記名で答えてもらいました。

音楽好きの大人にアンケートをとっても、事前の知識、先入観で答えてしまう確率が高いと思います。バーンスタインカラヤンフルトヴェングラーという名前を出しても「初めて聞いた名前ですね!」という子どもたちに先入観なしに自分にとってのNO.1を選んでもらったというわけです。

その結果、

1位:カラヤンベルリン・フィル

2位:バーンスタインウィーン・フィル

3位:朝比奈隆&大阪フィル

でした。

カラヤンをNO.1に選んだ理由で最も多かったのが、テンポでした。「颯爽として聴きやすかった」「スピード感があって迫力を感じた」というコメントが見受けられました。

何をもっていい演奏とするかは難しいところですが、今回アンケートを答えてくれた高校生にとってはテンポが大事だったようです。クラシックファンの間で人気の高いフルトヴェングラーの演奏は、「重たすぎ」「もっと音楽が前に進んでほしい」という感想が多く見受けられました。

クラシック音楽も聴く世代がだんだんと変わっていきます。フルトヴェングラーのような重厚なゆったりとした音楽からカラヤンのようなスタイリッシュで早めの音楽が好まれるようになっても、なんら不思議ではないですね。もしかすると、この高校生たちが成長し、中年になった頃には、このスピーディーなテンポを好まなくなるかもしれません。

この結果を受け、改めて私も、「昔から良いと言われている」からではなく、自分の感性を大事にしていきたいと思いました。

 

面白かったのが、3位の朝比奈隆さんの演奏に対しての「スケールが大きかった」「他に比べて演奏は上手くなかったけど、頑張っている気がする」というコメントでした。どのオーケストラがどれだけ上手いという話はせずに聴かせたので、子どもの耳からして、やはりベルリン・フィルウィーン・フィルの方がオーケストラとしては上手いと率直に感じたのでしょうね。(大フィルが悪いというわけでは決してありませんので)

ニューイヤーコンサート♪

 早いもので、もう2021年も終わりですね。あと数日で2022年。コロナも収まり、希望溢れる年になるといいですね。

 

 さて、あと数日でニューイヤーということで、ニューイヤーコンサートのCDを楽しんでいます。本当はジルベスターコンサート(ニューイヤーイヴコンサート)の方がシーズン的にはいいのかもしれませんが、一足早く、ニューイヤー気分を味わっています。

 

 ニューイヤーコンサートは歴代、様々な指揮者が指揮をしていますが、私の印象に強く残っているのはやはりカラヤンです。(もう1人はやはりクライバーですかね。)多少テンポ的に重たいと感じる曲もありますが、とにかくウィンナーワルツやポルカが優雅に聴こえます。そのCDがこちら、

 

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 このコンサートでは、ニューイヤーコンサート初のソリストが登場ということで話題になりました。キャスリーン・バトルの歌声も素晴らしいですよ。喜歌劇「こうもり」序曲から始まり、恒例のラデツキー行進曲で締めくくられます。演奏後の拍手やブラヴォーの声も入っているので臨場感も相まって、とても楽しく聴ける演奏です。

 しかし、残念なことに、この時代のニューイヤーコンサートはCD1枚に収まる時間、曲数しか収録されていないんです。(多くの皆さんはご存知ですよね)せっかくの記念すべきコンサートなのに、一部分しか収められていないのはとても残念です。ここ数年はCD2枚組で全曲収録で販売されていますが、カラヤンのこのニューイヤーコンサートに関しては完全収録版のCDは出ていないのではないでしょうか。更に私にとって残念なのは、「皇帝円舞曲(カイザーワルツ)」が収録されていないことです。カラヤンが指揮した「皇帝円舞曲」、絶対聴きたいですよね!なんて言ったって、「皇帝」という響きがカラヤンにぴったりじゃないですか。曲そのものもゴージャスでやはりカラヤン向きだと思います。それなのに、なぜこの記念すべきCDに収められていないのか本当に不思議です。もしかしたら、カラヤンが思い通りの演奏ができなかったので入れるな!と言った可能性も0ではないかもしれませんが。この「皇帝円舞曲」は何かのボーナストラックとしては入れられたことがあるようです。また、「ジプシー男爵」序曲と「常動曲」もコンサートのCDには入っていませんでしたが、「メモリアルカラヤン」という記念のCDには収録されました。(こちらのCDです)

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 このニューイヤーコンサートは、カラヤンの遺産シリーズとしてリリースされました。収録曲は完全に網羅されています。しかしここでも衝撃の事実が。曲順が違っているのです。どうやら最初にリリースしたのがレーザーディスクだったので(レコード同様、A面、B面がありました)、収録時間の関係で「皇帝円舞曲」や「常動曲」が違うところに移されたようです。現在のDVDやブルーレイであれば収録時間など気にせずに曲順通りにできたと思うのですが。仕方のないことかもしれません。更に、アンコールのワルツ「美しく青きドナウ」の前に行われる恒例のスピーチ、これがカットされているのです。カラヤンは「平和」についてドイツ語と英語でマイクを使ってスピーチを行いました。しかし、このマイクがいけなかったようで、最初のドイツ語のスピーチの際、マイクがハウリングを起こしたり、音を拾わなかったりとなんとも残念な結果に。英語のスピーチは何とかうまくいったようでした。スピーチの内容は素晴らしかったのですが、こういったハプニングがあったので、映像作品でもこのシーンはカットになってしまったのでしょう。カラヤンの美学からするとなんとなく納得です。

 さあ、2022年のニューイヤーコンサートバレンボイムが指揮を執ります。

どんなコンサートになるか楽しみですね!

 

 

 

 

ピリオド奏法を考え直してみました♪

ピリオド奏法はお好きですか?

 率直に言うと、私はピリオド奏法は好きではありません。(厳密に言うと、「好きではありませんでした」かな?)また、古楽器による演奏も好みではありません。全くとは言いませんが、ほとんどそういったスタイルの演奏は聴いていないと思います。一時ほど古楽器奏法は盛り上がってはいませんが、今でも古楽器による演奏、ピリオド奏法の話題はそれなりに出ていると思います。

 

 もともと私がクラシック音楽を好きになった時は、トスカニーニワルターフルトヴェングラーベームは亡くなっていましたが、カラヤンバーンスタインがクラシック界を牽引していて、CDもはやっていた時です。クライバーも人気になっていました。この時代の演奏と言えば、モダンオーケストラとでも言いましょうか、皆さんが普通に目にしている楽器で演奏されていました。ここに挙げた有名な指揮者でなくとも、ウィーン・フィルベルリン・フィルをはじめとして、日本のオーケストラでも、演奏されるモーツァルトベートーヴェンは決して小編成ではなかったと思います。ところが、ピリオド奏法が注目を集めると、オリジナルを追求しようとする流れが全世界的に広まったように思います。オーケストラだけではなく、ピアノも当時のハンマークラビア的な当時のピアノを再現して演奏する傾向にあったように思います。

 私はピリオド奏法や古楽器ブームになった時、「オリジナルを研究することは間違っていない。しかし、多くの演奏者、指揮者、オーケストラがそれぞれの分野で研究を重ね、今のスタイルを確立した。もともと今のような楽器の性能があれば昔の作曲家は今演奏しているようなスタイルを望んだだろうから、無理に機能が劣る楽器で演奏する必要はあまりないのではないか?」と思っていました。極端な例になるかもしれませんが、パソコンがあるのにわざわざワープロを買ったり、電卓があるのにそろばんを使うようなものかもしれません。

 ピリオド奏法に抵抗感を覚える人はこれに似た感情があるのではないかと思います。私の尊敬するカラヤンもピリオド奏法とは正反対に位置する指揮者だったと思います。ヴィヴァルディでもバッハでも大編成でゴージャスな演奏を繰り広げていて、これが批判の的にもなりましたね。カラヤンベルリン・フィルバロックバロックではないとまで言われていたように記憶しています。カラヤンはやはり彼なりの美学があり、古楽器やピリオド奏法を決して美しいとしなかったのでしょう。ピリオド奏法が正しい、正しくないという考えではなく、モダンオーケストラを「美」とする美的センスからすると、古楽器奏法は「美」とは捉えられなかったのでしょう。私もある程度共感できます。

 しかし、最近、音楽談義をしていて、ある人からこんな指摘をされました。

 音楽談義とは、オペラについてです。私は「最近のオペラの演出に違和感を覚える。特に時代設定をどうして勝手に変えてしまうのか?フィガロの結婚の登場人物がどうしてスーツで出てくるの?タンホイザーでどうしてアタッシュケースを持っているの?台本通りの時代設定でやるべきじゃないか?」というような見解を述べたのを記憶しています。

 この私の見解に対し、「あなたはオペラは時代設定通りにすべきと言ったよね。それなのに、どうしてオーケストラの古楽器奏法やピリオド奏法は否定するの?バロック音楽モーツァルトベートーヴェンの時代のオーケストラやピアノは現代のような性能の楽器ではないはず。なのにオーケストラの曲はモダンスタイルでないと受け入れないのは矛盾してない?だったら、昔は着物やドレスだった衣服がスーツや洋服になることは私たちの生活を考えたら当然の事でしょ?オペラの時代設定が現代的なことに何か問題はあるの?」と優しく諭してくれました。

 「・・・。(納得)」言葉が出ませんでした。確かにそうですよね。都合のいい部分だけ昔にかえり、他の都合のいい部分だけ現代にしておきたい。ある意味、これが私の美的センスと言いますか、価値観なのでしょう。この私の価値観に対しさらにある人は、「でも、その考えはそれでいいと思うよ。」と。有難い言葉です。よく考えれば、自分でも「CDよりレコードの方がいい音がするかも」。時が経つと、「配信の音楽では音の質が味わえないと思うからデータ配信ではなく、CDを媒体として持っていたい」と言ったりしています。また、新しいものではなく、レトロ感を味わいたい物も世の中には多々ありますよね。人はどこかでアナログ的な原点に返りたいと思う気持ちがあるのだと思います。

 したがって、ピリオド奏法は自分が聴く聴かないは別として、拒絶するのは止めようと思います。原点に立ち返る行動は当然として受け止めたいと思います。ピリオド奏法を好む人がいることも、それを受け入れない人がいることも両方ともありなんですよね。日本で現代文だけでなく、古文が大切というのもこういった価値観があるからこそですね。そもそも芸術はあらゆる解釈があるわけですから。

 

 最後に、カラヤンの話を少し。先程、カラヤンはピリオド奏法とは正反対に位置すると書きました。(このことはムーティも雑誌のインタビューで語っています。)最後までモダン演奏にこだわったカラヤンですが、実は2度目のブランデンブルク協奏曲の録音では、小編成にして演奏するなど、ピリオド奏法とまではいかないまでも、古楽器のオリジナル編成に歩み寄る編成での録音に挑戦したようです。この編成での演奏の評価が高いかはまた別の話なのですが、カラヤンなりにピリオド奏法の意義を考えての事だったのではないでしょうか。

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ブルックナー比較 ♪第9番♪(part2 )

ブルックナー比較第3弾!(part2 2・3楽章)

 

 今回は交響曲第9番の第2・3楽章の比較を行っていきたいと思います。

 

 2楽章は3拍子です。聴いていると何ともない3拍子なのですが、譜面上、1拍目からのスタートではなく、3拍目から始まる楽章です。なので、実際演奏すると、とても合わせづらい楽章なんです。拍が合わず、ばらばらになってしまう危険性をはらんだ楽章です。(同じように、1拍目から音楽が始まるように聞こえて、そうではない交響曲にはシベリウスの1番やサンサーンスの3番がありますね)

 そんな2楽章ですが、さすがカラヤンBPO&VPOです。崩壊の「ほ」の字も感じさせない素晴らしい演奏です。演奏時間はBPO版が10分37秒、VPO版が10分46秒ですが、VPO版は実質10分30秒で演奏が終わり、その後の16秒は余韻として入っているだけなので、ほぼ演奏時間は同じと考えていいでしょう。しかし、1楽章同様、だいぶテイストが違います。VPO版の方が全体的に早めにしかもエネルギッシュに聴こえる気がします。(これはpart1で紹介しましたが、こちらがライブ録音という環境が影響しているかもしれません)重厚な第1主題は1音1音しっかりと鳴らし重戦車のように進んでいきます。比較的マルカートのような短めの響きで統一されてスタイルです。コーダ直前の大合奏ではトランペットが勢い余って音を大外ししますが、この爆演なら許されるかな?と思います。積極的なミスとでも言いましょうか。続く中間部のコーダはチェロが濃厚な響きでメロディーを奏でていきます。ここもテンポはやや前向きに感じられます。音楽的にかなりディープな(こってりという表現も有りかと思います)味付けだと思いますが、個人的にはこういうブルックナーも悪くないと思いました。

 一方のBPO版ですが、第1主題はお得意のレガート的な演奏です。長いレガートの低音が音楽をリードします。低音が鳴ってはいるのですが、レガートな分、エレガントな雰囲気を醸し出しており、重戦車級のVPOのスタイルとは違う印象を受けます。ティンパニもソフトに音がする柔らかめのマレットを使ってるかもしれません。テンポも音が長い分若干遅く感じられました。コーダ前のまとまりもVPO版よりも落ち着いています。コーダもややゆったりした印象を受けました。その分、木管楽器の細かな動きが手に取るように分かります。よくもここまで細かく聴き取れると思うほどしっかりとバランスがとられています。これはスタジオ録音だからできる技かもしれませんね。

2楽章は勢いという面ではVPO版、精密という面ではBPO版が勝っているのではないでしょうか。

 

 最後の第3楽章です。BPO版が25分51秒、VPO版が24分19秒とありますが、実演部分は23分30秒で残りは終演後の拍手です。2分30秒近く違うので、この差はちょっと大きい気がしますね。

 まずBPO版ですが、全体的にゆったりしています。オクターブで奏でられる冒頭は「深淵」という言葉がぴったりのような気がします。深い音で始まり高音まで歌い上げられています。低音がずっと鳴り響いてフレーズを貫ています。その後の金管もやはりバランスが絶妙なサウンドです。最後の音の処理がやや短めです。一方のVPO版は少し速めのテンポではありますが、音楽の深さは同じようにあると思いますが、音が輝かしい気がします。悲壮感に漂うサウンドではなく、いい意味でプラスの気持ちが感じられる明るめのサウンドなんです。それに続く金管はこちらは少し長めに処理されています。低音はこの楽章ではそれほど強烈には響いてきません。3分あたり、ワーグナーチューバのハーモニーが登場しますが、ここはVPO版のサウンドの温かさが特徴的です。「ポー」(カタカナでは表現できませんが)という温かなサウンドが心に届いてきます。BPO版もハーモニーは綺麗です。バランスもこちらの方が整っているかもしれませんが、若干無機的に聴こえるかもしれません。

 第2主題はどちらも素晴らしいのですが、ここでもBPOは低音を響かせ、ゆったりとした足取りで音楽を進めていきます。特にヴァイオリンが美しいし仕事をしていると思います。ここはかなり流れるようなしなやかで力強い部分ですが、一般的に言われる過度なレガートではなく、ごくごく自然なレガートで心地よいと思います。カラヤンが指示したわけでも、BPOが示し合わせて合わせたわけでもなく、本当に両者が自然に音楽を奏でているのではないでしょうか。VPO版はBPO版よりもヴィオラ・チェロの内声が充実しているように感じました。いい意味で少し厚みのある腰の据わった響きがしてきます。この部分は本当に甲乙つけがたい演奏だと思います。

 中間部に差し掛かり、金管が咆哮する部分ですが、ここはテンポがかなり違います。VPO版の方が圧倒的に速いです。ただ、音楽的に速すぎかというとそんなことはないと思います。むしろ人によってはBPO版の方がもたついていると感じるかもしれませんね。(この楽章はとにかくBPO版が終始ゆったりと構えた演奏です。)私はここのBPOのテンポは妥当だと思います。一歩一歩、着実に音を刻み込むような壮大な響きです。

 ここまで聞き比べて思ったのですが、(この時点で約1分30秒の演奏時間の差が生じています)BPOがゆったり、VPOがやや速めというのは、やはりライブかそうではないかが大きい気がします。VPO版はその場の雰囲気、プレーヤーの息の長さ、会場の興奮が相まって、あのカラヤンをしても興奮を抑えきれていない状態ではないかと。Part1で述べましたが、この演奏会は久々のVPOとの共演ということもあり、喜びに満ちていたと思います。ですから、本来、冷静に音楽を奏でることのできる両者が、共に興奮状態だったような気がします。その結果がこのテンポなのでしょう。BPO版はいい意味で無駄な興奮はなく、むしろ冷静沈着に無垢の精神で向き合ったブルックナーだったのではないでしょうか。したがって、息が長く、フレーズをたっぷりとる落ち着いた響きの演奏になったように思われます。この考察が正しいかは分かりませんが、後半の神の声とも思えるコラールの部分で、まさにこの違いが出ているように感じました。BPO版は澄んだ完璧(は言い過ぎですが)なハーモニーでコラールを奏でます。天から光が差すようです。本当に透き通ったサウンドが降ってきます。ところがVPO版は響きに血が通っているんです。多少、ハーモニーは濁っていますが、思いがこもった音なんです。天から降ってきたBPOサウンドとは違い、こちらから神に向かっての祈りが感じ取れる気がします。音も若干膨らませ気味。でも人間味、温かみがあって素晴らしいこと!ここだけ、テンポがBPOより遅く感じられるくらいです。

 こうして、最後のコーダに突入し、曲は静かに終わっていきます。終曲部分はどちらも秀演です。最後のハーモニー、低音のピッチカートが印象的。曲が終わったら、しばらく静寂を味わいたいと思ってしまいます。(VPO版は比較的すぐに拍手と歓声が入ります)

 以上が第9番の比較レポートでした。個人的には人間味あふれたVPO版が好きです。曲を冷静に楽しむ、分析したいときはBPO版を聴いています。皆さんはどちらがいいと思うでしょうか?是非、聴き比べてみてください。

 

 さて、この9番はBPO、VPOそれぞれ映像で残されています。BPO版が1985年の「万霊節」メモリアルコンサートのライブ、VPO版が1978年のムジークフェラインザールでのライブです。

 

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 DVDの解説によると、このVPO版の9番はカラヤンがいたくお気に入りで、商品化することを喜んでいたそうです。演奏はCDのVPO版よりも更にスピーディーなテンポどりです。推進力にあふれた演奏ですが、その分揃わないところも散見されます。なんとかフェルマータでまとまるといった印象もありますが、確かに活気にあふれる演奏です。カラヤンの指揮自体もダイナミックです。こんなに大振りなんだとちょっとびっくりしました。

 一方のBPO版はライブではあるもののVPO版よりも全体的に大人しめの印象です。カラヤン自身、見えないようになっているサドル型の椅子に腰かけての演奏なので、指揮の動き自体が晩年の手先を少し動かすスタイルになっています。決して悪い演奏とは思いませんが、1楽章の後半、金管が大音量で鳴らす場面で、トランペットが全く違うテンポで吹き出し、あわや空中分解しそうな場面があります。その時、カラヤンのアップが映し出されるのですが、ちょっと困った顔をしているような気がします。しかし、さすがはカラヤンベルリン・フィルのコンビです。そのあと何事もなかったかのように立て直し、また深淵な響きに戻っていきます。このライブの方がBPO版のCDよりもテンポは若干速いような気がします。やはりライブとなると、あのゆったりしたテンポはちょっときついのかもしれませんね。

 

 というわけで、3回(実質4回)にわたるブルックナー比較、いかがでしたでしょうか?次回以降、違った視点からカラヤンを考えてみたいと思います。何か面白い情報をお持ちでしたら、是非コメント欄にお願いします。

 

 

ブルックナー比較 ♪第9番♪


ブルックナー
比較第3弾!(part1 1楽章)

今回は第9番について、BPOとVPOの比較を行いたいと思います。ブルックナー比較は実質最終回(part1)です。(他の交響曲はこの2つのオケの比較ができないもので)

 

 9番はご存知のように、3楽章までしかない交響曲です。第4楽章はわずかなスケッチが残されてはいるそうですが、未完に終わっています。本当はフーガにするつもりだったらしいですが、4楽章があったとしたら、第8番同様長大な曲になっていたことでしょう。(3楽章までの状態で60分を超えていますからね。)

 

 では、9番の比較に入っていきましょう。今回比較した演奏もドイツ・グラムフォンの2つの演奏です。

                                                                                   

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 この2つの演奏は演奏された時期がとても近いので、曲へのアプローチはそう変わらないと思うのですが、BPO版はセッション録音(1975年)、VPO版はライブ録音(1976年)という違いがあるので、その点は演奏自体に大きな影響を与えているように思います。特に、このVPOとの演奏は、カラヤンがしばらくVPOと疎遠な時期が続いていましたが、そのわだかまりも解け、和解しようとしているまさにその時のザルツブルクでの演奏会のライブ録音です。ウィーンフィルの結成150年記念特別企画のCDなので、もしかするとそれほど出回っていないかもしれません。(中古CDショップでも「限定版」や「レア」と紹介されていることが多いかもしれません)

 前置きはここまでとして、本題に入っていきましょう。

 1楽章:演奏時間には約1分の差があります。BPO版は24分54秒、VPO版は24分38秒この楽章の長さからするとそれほどの差とは言えないかもしれませんが、出だしでだいぶ雰囲気が違うように感じました。BPO版はブルックナートレモロで厳かに始まります。テンポは遅めです。個人的にはもうちょっと前に進んでもらいたいかなと感じますが、重厚で落ち着きがあります。一方、VPO版は7番、8番とは趣が異なり、低音がBPOよりも前面に出てきます。また、テンポも前に進もうという勢いが感じられます。なんとなくブルックナーの重々しく荘厳な響きというよりは、いい意味で明るさがあり、宇宙全体を包み込むような壮大さがあるような響きです。別の観点からすると、オケのやる気がものすごく伝わってくるんです。ただ、金管(特にトランペット)の音がちょっと興奮し過ぎなのかオーバーブロー気味で、大音量の部分で重心が下がらないバランスになりがちです。最初のTutti(2分20秒あたりから)の頂点に向けては、BPO版はそれほどアチェルランドせず、たんたんと音楽が進みます。この頂点の部分は2拍3連やら8音符などリズムが入り乱れて、ほぼほぼグチャっとして最後の伸ばしでなんとか帳尻が合うというのがほとんどではないでしょうか。(自分が演奏した時もそうだった気がします)しかし、このBPO版は実にきちんと演奏されています。完全にリズムの違いが出ていて、ずれが正確に聴き取れるのです。恐れ入りましたと言わんばかりの構成力です。そして最後の伸ばしも力むことなく、余裕をもった音でまとめています。VPO版はというと、皆さんの想像通り、混沌とした演奏です。アチェルランドで音楽がどんどん加速し、いざ!というところでVPOの皆さんが完全に解放されて、思い思いのテンポでたっぷり吹き出します。リズムは不正確だと思います。最後の音もまとめるというより、何とかそろって短めに切られてしまいます。(笑)でもすごい推進力です。終始冷静のイメージのカラヤンですが、ライブでは燃える人だったと思います。それが思いっきり出た演奏ではないでしょうか。こういう熱いブルックナーもありかな?と思いました。

 その後の、ゆったりとした第1主題はBPO版は非常に透明感のある音です。弦セクションがものすごくいい働きをしていると思います。バランスも良く「綺麗」という言葉がふさわしい演奏だと思います。ただ、途中で登場する交響曲第7番の2楽章のテーマ(ワーグナーの死を悼むテーマ)があっさりと演奏されてしまう点が個人的に少し残念です。まあ、この曲は7番ではなく「9番」なので、7番をそこまで主張しないという解釈なのかもしれません。一方のVPO版ですが、とにかく音色が甘く、素晴らしいと思います。一旦落ち着いたのでしょうか?音の広がりが急に出てきます。先程よりもいい意味で開かれた音楽になっています。7番のテーマもたっぷりチェロが奏でてくれます。この主題に関しては私はVPO版が勝っているような気がします。

 続く第2主題、BPO版は低音が先程よりも存在感を増してきます。ここは計算された音楽構成だなと感心しました。強弱もしっかりとつけられていていい意味で冷静に聴くことができます。金管も吠え過ぎず、耳には心地いいですね。フルートの音もとても澄んでいていいと思います。VPO版はライブ録音なのに、細かい動きがかなり聞き取れる演奏になっています。ここはBPO版よりも落ち着きはありません。やはり冒頭同様、前に進もうとする音楽になっています。しかし、ホルンがとてもいい味を出しています。ウィンナーホルンの独特な音色がバランスの中核を担ってしっかり響いています。逆にトランペットの音がちょっと短く感じます。もう少したっぷり響いた方がいいかな?と思ってしまいました。

 15分30秒あたりのアーフタクトで金管が飛び込む部分は、VPO版は全然揃わないんです。中途半端な勢いで飛び込んできます。どうしたんだろう?と思ってしまいました。もしかするとトランペットは前半に飛ばし過ぎて、ばてたのでしょうか?BPO版はといいますと(15分50秒あたり)実にきっちり入ってきます。スタジオ録音という事情はありますが、こういうところはBPOは本当に職人技ですね。安心して聴くことができました。

 このあとは主題を繰り返しながら進み、いよいよコーダです。BPO版はとにかく堂々と音楽が進みます。一本の糸でずっと最後までつながっているような細かい動きも手に取るようにわかります。金管のリズムは非常にかっちりとしていて、まさに「縦の音楽」と言ったところでしょうか。響きも一切濁りがなく、冒頭に述べた通り、透明感あるブルックナーです。VPO版も意外にすべての細かい動きが鮮明に聴き取れるバランスです。ライブでここまでとは恐れ入るといった感じです。リズムは比較的BPOよりは緩く、勢いを感じさせます。(決してリズムが甘いわけではありません)テンポは速めです。完全にハモっているわけではなく、少し混沌とした響きなのですが、それがかえって「The ブルックナー」といったまさにオルガントーンだと思いました。

 

 ちょっと熱を入れてじっくり聴きすぎてしまったもので、本日は第1楽章のみのレビューとなってしまいました。近日中に2,3楽章のレビューを行いたいと思います。

 

 映像作品に関してはBPOとの演奏が1985年、VPOとの演奏が1979年で残されています。第1楽章に関しては今回のCDでの印象と同じように思いました。ただ、この映像作品はともにライブ録画です。やはりライブということもあり、両方危ない箇所が存在します。それを含めてレポートしていきますね。お楽しみに♪

 

 

 

 

ブルックナー比較 ♪第8番♪

ブルックナー比較第2弾!

 今回は第8番について、BPOとVPOの演奏比較をしてみたいと思います。

 8番は本当に壮大な曲です。1曲聴くのにだいたい90分近くかかるだけでなく、聴く覚悟が必要な曲だと思います。気力、体力が耐えうる状態でないと曲に打ち負かされて、苦痛に感じることさえあるかもしれませんね。この曲は私の体調のバロメーターなんです。体調が思わしくない時はカラヤンの演奏だろうが、朝比奈隆さんの演奏だろうが、とにかく全くまとまった美しい音楽として耳に届いて来ないのです。全てがバラバラに聴こえてきます。したがって、自分では自覚がなくても、8番をかけた瞬間、音がバラバラに飛び込んできたら、すぐにプレーヤーを止めて、体を休めるようにしています。

 

 では、本題の8番比較に入っていきましょう。

今回もドイツ・グラムフォンのBPO版とVPO版の聴き比べをしてみました。どちらもハース版です。

 

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 1楽章はどちらも演奏時間はそう変わりません。BPO版が16分47秒、VPO版が16分56秒です。出だしはどちらも甲乙つけがたい演奏です。7番同様、BPO版の方が輪郭がしっかりとした響きのように感じます。音の立ち上がりもスマートです。VPO版は何となくですが、棒より常に遅れて後から音が押し出されていく感じがします。(映像作品でも見てしまっているので、音を聴いている時でも、映像が浮かんでしまうせいかもしれません)どちらもいい流れで進んでいくのですが、中間部以降、大音量のTuttiになると、(録音のせいかもしれませんが)私にはBPO版の金管のバランスがいまいちに聴こえます。音の構造はよくわかるのですが、トランペットの音が細いんです。もっとズシ~ンとした太いハイトーンが聴きたいのですが、線が細い気がします。それと、金管セクションでなんとなく縦の線がずれるんです。VPO版でも縦の線のずれはそれなりにありますが、それほど気にならず聴けるのですが、なぜかBPO版はそのずれがとても気になりました。逆の言い方をすると、きちんとあっている箇所が多い分、ちょっとのずれがとても目立ってしまうんです。パート内で若干前に行ってしまう奏者がいるようです。また、時より音が外れているのが気になりました。曲に入り込めそうな時に、このミスートンで聴いている集中力がちょっと切れそうになってしまいます。(完璧主義と言われるカラヤンですが、意外にスタジオ録音でもミスを修正せずにそのままリリースしているんです。よく、「切り貼りをして不自然な音楽を作っている」などと批判の対象になっていますが、そうでもない面もあるようです。とり直そうと思えばできたのに、あえてミスがあるままリリースされている作品が結構あります。これは今後、特集したいと思います。)VPO版は縦の線が完璧でないファジーさが味わい深さを出しているとも言えます。また、音のミスも恐らくあるのでしょうけれど、私には全く気になりませんでした。というわけで、1楽章はVPO版に軍配を上げたいと思います。

 2楽章。実は私、2楽章がなんとなく苦手なんです。単調というか…。この楽章の演奏時間は1分以上の差がありました。BPO版が15分06秒、VPO版が16分25秒です。演奏のスピード感がそのまま演奏時間の差になっているという印象です。BPO版の方が颯爽とした出だしです。苦手感のある私にとってはこちらの方が聴きやすく感じます。1楽章がずっしり、このあとの3楽章が荘厳であるというバランスを考えると、あまり重た過ぎない感じがいいように思います。ではVPO版が遅くて重たいかというとそうでもないんです。ほどよい遅さなので、そう胃もたれ感を起こさずに聴くことができます。落ち着いた印象を受けます。VPO版は1楽章とが逆にトランペットが少しペラペラ聴こえます。もう少し深い感じの音だと印象が違う気がします。中間部からは両楽団とも持ち味を発揮して素晴らしいと思います。不思議とこの中間部を終えて再び第1主題に戻ると、どちらも落ち着いたテンポでその差をあまり感じなくなりました。ということで、2楽章はBPO版がいいと思います。

 3楽章。この曲の中で1番人気のある、美しい楽章でしょう。長い楽章ですが、さすがカラヤン。どちらの盤もそう長く感じさせない演奏です。しかし、演奏時間はというと意外や意外、約1分VPO版の方が速いのです。しかし、決して速くは聴こえません。私にはこのVPO版のテンポがベストだと思います。BPO版の出だしはやや遅めです。個人的にここはもうちょっと前に行って欲しいと思います。しかし、2楽章との関係で考えると、BPO版では2楽章速め・3楽章少し遅め、VPO版では2楽章遅め・3楽章少し速めとカラヤンの計算された演奏時間設定なのかもしれません。

 全体的にBPO版はやはり構造がはっきりと聴き取れる明瞭な演奏です。これはカラヤンブルックナーに共通する演奏スタイルだと思います。また、低音の重戦車軍団が演奏を支えています。楽章がスタートしてから低音がコンスタントに轟いている印象です。しかし、VPO版は楽章の初めは低音が抑え気味に奏でられている印象です。楽章の後半に向かって重低音がその威力を増していき、クライマックスではBPO版をしのぐ重さで、しかも下からえぐるように全体を支配していくようです。これはカラヤンが晩年に到達した境地なのか、それともVPOが持つ伝統美なのかわかりませんが(もちろんその両方がミックスしたのかもしれませんね)BPO版は感じられない美しさと力強さです。この楽章は決して綺麗だけでは済まされない楽章です。BPO版は十分に美しい。しかし私には美しさが一定に保たれていてクールすぎる気がします。より人間臭さのある、感情を感じさせるVPO版が優れているように感じました。

 4楽章。演奏時間の差はほとんどありません。BPO版が24分07秒、VPO版が23分59秒。たった8秒の違いなので、差はないと言っていいでしょう。構造美、重低音に関してはずっと述べてきたようにBPO版の素晴らしさが出ています。この楽章はこの演奏スタイルがぴったりだと思います。ティンパニのしまりのある音も魅力的です。方やVPO版ですが、音が1つ1つ聴き取れる演奏ではないですが、音がブレンドしたオルガントーンで非常にまろやかな温かみのある演奏です。音が後から来るので落ち着きがあり、安定しています。コラールの響きも染みわたります。したがって、どちらの演奏も中盤までは拮抗しています。私にとって差が出るのは最後の5分です。BPO版は突如破綻してしまったように感じるのです。まず、テンポがよくわからなくなります。意図的にアチェルランドしているのか、とりわけ金管が暴走してしまっているのか分かりませんが、突如各パートがいい意味でなくバラバラに聴こえてきます。あまりに楽団が高揚し過ぎた結果かもしれませんが、演奏の安定感が急になくなった印象です。また、ホルン、トランペットがまた音を外す場面も見られます。トランペットはちょっとバテているのでは?とも思える音の質になってしまい、オーケストラのバランスも崩れているように感じます。そして、ラストの3音も急いで奏でて終わってしまうような印象を受けました。それに比べ、VPO版はとにかく安定しています。テンポも一定でオケが完璧に響いて、最後の3音をたっぷり奏でて荘厳に曲を終えます。この最後の5分でVPOに勝負ありといったところでしょうか。晩年、カラヤンはリハーサルで「鳴らせばいいってもんじゃない。完璧な響きでないと」とVPOに向かって言っていました。(「カラヤン・イン・ザルツブルク」の映像作品の中で、タンホイザー序曲のリハーサルで見ることができます。)この曲のリハーサルでも同じようなことを言っていたかもしれませんね。

 長々とレポートしてみましたがいかがでしたか?

 カラヤンを好きになって、様々な演奏をLPで聴きあさるようになり、ブルックナーもその流れで聴こうと思い、初めて手にしたのが、このBPOとの8番でした。その当時、初めてブルックナーを聴いた時、ブルックナーの良さは全く分かりませんでした。カラヤンの演奏でも感動は覚えませんでした。同じ時期、バーンスタインマーラーの5番を聴いた時は鳥肌が立ったのを覚えています。その後、ブルックナーの7番に出会い、ブルックナーを愛好するようになりました。その7番は前回取り上げたVPOとの演奏でした。歳を重ね、ブルックナーをしっかり聴くようになってから、再びBPOとの8番を聴きましたが、そこまでビビビっとはきませんでした。一方、大学時代にCDショップでVPOとの8番を何気なく購入し、聴き終わった時にしばらく動けなかったことを今でも覚えています。今回も先入観なしに比較したつもりですが、初めてこの曲を聴いた印象と20年以上たった今と意外に印象が変わっていなかったようです。ファーストインプレッションも馬鹿にならないなと思いました。

 今回は上記の2つの演奏比較でしたが、個人的に1966年の来日公演のライブ録音も面白いと思っています。正確さや緻密さ、VPOのような温かみはないかもしれませんが、推進力があり、しかもパワフルな演奏です。人によっては古きよきBPOサウンドと表現するかもしれませんね。2つの演奏と違う楽しみ方ができると思います。是非聴いてみて下さい。

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 8番に関しては映像作品が2種類残されています。いずれもVPOとの作品です。1つは1979年の聖フローリアン教会でのライブ、もうひとつが1988年のムジークフェラインでのセッション。教会でのライブ演奏は、テンポはやや速めでアプローチはBPO版に近いかもしれません。VPOをかなり鳴らそうとリードしています。残響が多く、時よりテンポが危うくなりますが、コンサートマスターが必死に動いて演奏を立てなそうとする場面が見受けられて面白いですよ。

 次回は9番の比較です。お楽しみに♪

 

 

 

ブルックナー比較 ♪第7番♪

BPOとVPOの演奏

 

 カラヤンブルックナーを自分のレパートリーの中心にしていたと思います。ベルリン・フィルとの全集も有名ですし、晩年に残したウィーン・フィルとの録音もブルックナーでした。ただし、1番~6番までは演奏頻度は高くなかったようで、1番、2番、3番、6番は録音だけで、演奏会では取り上げた記録がありません。カラヤンが得意としたのはやはり7番、8番、9番の3曲ですね。録音、映像作品も複数残されています。この3曲はうれしいことに、BPOとVPO2つのオケで録音が残されています。皆さんはどちらのオケとの演奏がお好みでしょうか?

 演奏の比較となると、様々なブログで「○○の方が精神性がない」や「△△でなければならない」といったコメントが見受けられますが、ここではあくまで好みを述べたり、語り合う場にしたいと思います。なぜなら、私自身が本当のベートーヴェンモーツァルト、今回取り上げるブルックナーの本質を理解している、あるいは知っているわけではないからです。芸術作品にはよくある話ですが、存命中は見向きもされなかった作品が後世になり評価される。果たして後世の人がその作品を本当に理解した結果、有名になったのか、作者の意図とは別のところで評価され有名になったのかは分かりませんよね。文学作品でも「そんな意図で書いたのではないけれど、勝手な想像で有名になった」なんて例はいくつもありますからね。

 というわけで、今回は7番を取り上げたいと思います。

 

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 私が所有しているCDはこの2点です。この他にもライブ録音されて売られているCD-Rや You Tube でアップされている演奏もあるようですが、あくまで正規版で聴き比べてみました。

 実は、どちらが好みかと言われると、はっきりと決めることはできません。どちらも味があると言いましょうか・・・。世の中ではVPO版の評価が高いかもしれません。カラヤン白鳥の歌となったこの演奏。それだけでも聴き手にとってはプラスに作用するかもしれません。VPOの温かみのあるサウンドも素晴らしいと思います。しかし、そういった事前の情報や知識を捨て去り(捨て去るのは至難の業ですが)いざ、曲を聴いてみると、私にはVPO版の冒頭がやや速く感じられます。事前の情報を捨て去ると言いましたが、私自身、カラヤンの7番を初めて聴いたのはこのVPO版でした。(30年くらい前の話です)当時は、この演奏がとても気に入っており、聴くたびに酔いしれていました。それから10年以上経ったでしょうか、ふとBPO版のCDを手に入れ、聴いてみたところ、出だしのテンポ感が違うように感じました。オケが違うというよりも旋律に込められた何かが違う気がして。BPO版は「原点版」、VPO版が「ハース版」と版の違いも全体としては違いに影響するかもしれませんが冒頭の数小節ですごい違いを感じてしまいました。という昔からの思いを一度拭い去っても、やはり冒頭のテンポ感はBPOの方が好きです。1楽章最後のコーダも個人的にBPO版の方が荘厳さを感じます。音は確かにVPOより鋭く耳に飛び込んで来る気がしますが、音の輪郭がはっきりと聞き取れ、トランペットの音が遠くまで響き渡ります。VPO版は輪郭がぼやけると言いますか、よく言うと音が全体的にブレンドしてしまいフワッとした感じで終わってしまう気がするんです。というわけで、1楽章はBPOの演奏が好みです。

 2楽章は逆に音のブレンド、温かさから、VPO版がいいと思います。テンポはBPO版よりも若干遅く、それがワーグナーの死を悼む空気を醸し出しているように思います。音がえぐられて下から聴こえてくる演奏です。ここはBPO版では音の輪郭ははっきりとしていますが、ちょっとストレートに飛んでくる感じで一溜め欲しいかな?と思います。十分心に染みる演奏ですが、ここはVPOの全体を包み込むようなオルガンサウンドに軍配を上げたいと思います。

 3楽章は甲乙つけがたい演奏です。BPOの方がスピーディー(実際30秒の差)で心地よく流れていきます。2楽章がたっぷりした分、3楽章で前に行くことを考えるとBPOの演奏の方がすっと聴けるような気がしますが、しっかりと耳を澄ますと、コントラバスをはじめとする低音部隊の細かい動きがしっかりと聴こえてきます。VPOよりレガート感は強いように思います。レガートでメロディーが流れつつも、低音のしっかりとした細かい動きがあいまって、構造美が際立った演奏に感じました。中間部はVPOの方がよりゆったりと(レガートとという意味ではなく)流れています。クラマックスのトランペットの下降音型はこちらのほうがよりたっぷり、感情がこもった感じです。

 4楽章もBPOの方がスマートですが、決して速くは聴こえません。やはり低音がしっかりとテンポを刻んでおり、安定感があります。音も全体を通してくっきりと聴こえてきます。金管が吠える場面でも、非常にバランスよく響きがすっきり(決して軽いわけではないと思います)しています。VPO版はややトランペットが前面に出過ぎる響きがあるように感じます。悪く言うとちょっとキンキンしてサウンドが散っている印象を受けます。それを爆演ととってプラスで考えるかは本当にその人の好みになると思います。ホルンのサウンドBPOの方が低音の含みが感じられます。ただ、VPO版の方が全体としては落ち着いていて必死に聴くというより、敬虔な気持ちで聴くことができるのではないかと思います。

 実は、4楽章に関しては1つエピソードがあります。今回取り上げたVPOの演奏はカラヤン・ゴールドのCDですが、このCDを所有する前は、通常のドイツグラムフォンの黄色帯のCDを聴いていました。そのCDでは4楽章のテイクが12分台だったのですが、このゴールドCDだと13分なのです。疑問に思い、販売元のポリドールに問い合わせしたところ、使ったテイクを変えて編集したので4楽章の時間が変わってしまったとのことでした。このことは、カラヤンの情報では恐らくNO.1であった

Herbert von Karajan dirigiert Anton Bruckner

のサイト内でも記事を投稿させてもらいましたが、残念ながら管理人さんがお亡くなりになり、一部は閲覧可能ですが、色々とやり取りをさせて頂いたBBSは見られなくなってしまいました。当時、お話をさせた頂い方々、本当にありがとうございました。この場を借りて、御礼申し上げます。管理人さんも本当に良い方でした。ありがとうございました。

 というわけで、とりとめもない7番の聴き比べレポートでしたがいかがでしたか?

トータルで考えると、私はBPOとの7番の方が好みのようです。これはあくまで私見です。聴く機械、スピーカー、その時の気分や体調でも全く違う音楽に聴こえてしまうと思います。皆さんは私のレポートなど気にすることなく、自由に7番とお付き合い下さいね♪

(1つ残念なのは7番に関しては映像作品が残されなかったことです。8番、9番はあるのに、なぜ7番は残さなかったのかとても疑問です。晩年、VPOと8番は録音及び映像作品を残しました。しかし7番は録音だけ。もともと録音のセッションしか予定していなかったようです。本当はシューベルトの未完成交響曲もレコーディング予定だったそうですが、7番に時間をかけすぎてできなかったと何かで読んだ記憶があります。それにしても、その時に映像も残してもらいたかった・・・。)

 次回は8番を比較したいと思います。