karajanjanの日記

カラヤンについて語りましょう

ブルックナー比較 ♪第8番♪

ブルックナー比較第2弾!

 今回は第8番について、BPOとVPOの演奏比較をしてみたいと思います。

 8番は本当に壮大な曲です。1曲聴くのにだいたい90分近くかかるだけでなく、聴く覚悟が必要な曲だと思います。気力、体力が耐えうる状態でないと曲に打ち負かされて、苦痛に感じることさえあるかもしれませんね。この曲は私の体調のバロメーターなんです。体調が思わしくない時はカラヤンの演奏だろうが、朝比奈隆さんの演奏だろうが、とにかく全くまとまった美しい音楽として耳に届いて来ないのです。全てがバラバラに聴こえてきます。したがって、自分では自覚がなくても、8番をかけた瞬間、音がバラバラに飛び込んできたら、すぐにプレーヤーを止めて、体を休めるようにしています。

 

 では、本題の8番比較に入っていきましょう。

今回もドイツ・グラムフォンのBPO版とVPO版の聴き比べをしてみました。どちらもハース版です。

 

    f:id:karajanjan:20211017224313j:plain      f:id:karajanjan:20211017224715j:plain

 1楽章はどちらも演奏時間はそう変わりません。BPO版が16分47秒、VPO版が16分56秒です。出だしはどちらも甲乙つけがたい演奏です。7番同様、BPO版の方が輪郭がしっかりとした響きのように感じます。音の立ち上がりもスマートです。VPO版は何となくですが、棒より常に遅れて後から音が押し出されていく感じがします。(映像作品でも見てしまっているので、音を聴いている時でも、映像が浮かんでしまうせいかもしれません)どちらもいい流れで進んでいくのですが、中間部以降、大音量のTuttiになると、(録音のせいかもしれませんが)私にはBPO版の金管のバランスがいまいちに聴こえます。音の構造はよくわかるのですが、トランペットの音が細いんです。もっとズシ~ンとした太いハイトーンが聴きたいのですが、線が細い気がします。それと、金管セクションでなんとなく縦の線がずれるんです。VPO版でも縦の線のずれはそれなりにありますが、それほど気にならず聴けるのですが、なぜかBPO版はそのずれがとても気になりました。逆の言い方をすると、きちんとあっている箇所が多い分、ちょっとのずれがとても目立ってしまうんです。パート内で若干前に行ってしまう奏者がいるようです。また、時より音が外れているのが気になりました。曲に入り込めそうな時に、このミスートンで聴いている集中力がちょっと切れそうになってしまいます。(完璧主義と言われるカラヤンですが、意外にスタジオ録音でもミスを修正せずにそのままリリースしているんです。よく、「切り貼りをして不自然な音楽を作っている」などと批判の対象になっていますが、そうでもない面もあるようです。とり直そうと思えばできたのに、あえてミスがあるままリリースされている作品が結構あります。これは今後、特集したいと思います。)VPO版は縦の線が完璧でないファジーさが味わい深さを出しているとも言えます。また、音のミスも恐らくあるのでしょうけれど、私には全く気になりませんでした。というわけで、1楽章はVPO版に軍配を上げたいと思います。

 2楽章。実は私、2楽章がなんとなく苦手なんです。単調というか…。この楽章の演奏時間は1分以上の差がありました。BPO版が15分06秒、VPO版が16分25秒です。演奏のスピード感がそのまま演奏時間の差になっているという印象です。BPO版の方が颯爽とした出だしです。苦手感のある私にとってはこちらの方が聴きやすく感じます。1楽章がずっしり、このあとの3楽章が荘厳であるというバランスを考えると、あまり重た過ぎない感じがいいように思います。ではVPO版が遅くて重たいかというとそうでもないんです。ほどよい遅さなので、そう胃もたれ感を起こさずに聴くことができます。落ち着いた印象を受けます。VPO版は1楽章とが逆にトランペットが少しペラペラ聴こえます。もう少し深い感じの音だと印象が違う気がします。中間部からは両楽団とも持ち味を発揮して素晴らしいと思います。不思議とこの中間部を終えて再び第1主題に戻ると、どちらも落ち着いたテンポでその差をあまり感じなくなりました。ということで、2楽章はBPO版がいいと思います。

 3楽章。この曲の中で1番人気のある、美しい楽章でしょう。長い楽章ですが、さすがカラヤン。どちらの盤もそう長く感じさせない演奏です。しかし、演奏時間はというと意外や意外、約1分VPO版の方が速いのです。しかし、決して速くは聴こえません。私にはこのVPO版のテンポがベストだと思います。BPO版の出だしはやや遅めです。個人的にここはもうちょっと前に行って欲しいと思います。しかし、2楽章との関係で考えると、BPO版では2楽章速め・3楽章少し遅め、VPO版では2楽章遅め・3楽章少し速めとカラヤンの計算された演奏時間設定なのかもしれません。

 全体的にBPO版はやはり構造がはっきりと聴き取れる明瞭な演奏です。これはカラヤンブルックナーに共通する演奏スタイルだと思います。また、低音の重戦車軍団が演奏を支えています。楽章がスタートしてから低音がコンスタントに轟いている印象です。しかし、VPO版は楽章の初めは低音が抑え気味に奏でられている印象です。楽章の後半に向かって重低音がその威力を増していき、クライマックスではBPO版をしのぐ重さで、しかも下からえぐるように全体を支配していくようです。これはカラヤンが晩年に到達した境地なのか、それともVPOが持つ伝統美なのかわかりませんが(もちろんその両方がミックスしたのかもしれませんね)BPO版は感じられない美しさと力強さです。この楽章は決して綺麗だけでは済まされない楽章です。BPO版は十分に美しい。しかし私には美しさが一定に保たれていてクールすぎる気がします。より人間臭さのある、感情を感じさせるVPO版が優れているように感じました。

 4楽章。演奏時間の差はほとんどありません。BPO版が24分07秒、VPO版が23分59秒。たった8秒の違いなので、差はないと言っていいでしょう。構造美、重低音に関してはずっと述べてきたようにBPO版の素晴らしさが出ています。この楽章はこの演奏スタイルがぴったりだと思います。ティンパニのしまりのある音も魅力的です。方やVPO版ですが、音が1つ1つ聴き取れる演奏ではないですが、音がブレンドしたオルガントーンで非常にまろやかな温かみのある演奏です。音が後から来るので落ち着きがあり、安定しています。コラールの響きも染みわたります。したがって、どちらの演奏も中盤までは拮抗しています。私にとって差が出るのは最後の5分です。BPO版は突如破綻してしまったように感じるのです。まず、テンポがよくわからなくなります。意図的にアチェルランドしているのか、とりわけ金管が暴走してしまっているのか分かりませんが、突如各パートがいい意味でなくバラバラに聴こえてきます。あまりに楽団が高揚し過ぎた結果かもしれませんが、演奏の安定感が急になくなった印象です。また、ホルン、トランペットがまた音を外す場面も見られます。トランペットはちょっとバテているのでは?とも思える音の質になってしまい、オーケストラのバランスも崩れているように感じます。そして、ラストの3音も急いで奏でて終わってしまうような印象を受けました。それに比べ、VPO版はとにかく安定しています。テンポも一定でオケが完璧に響いて、最後の3音をたっぷり奏でて荘厳に曲を終えます。この最後の5分でVPOに勝負ありといったところでしょうか。晩年、カラヤンはリハーサルで「鳴らせばいいってもんじゃない。完璧な響きでないと」とVPOに向かって言っていました。(「カラヤン・イン・ザルツブルク」の映像作品の中で、タンホイザー序曲のリハーサルで見ることができます。)この曲のリハーサルでも同じようなことを言っていたかもしれませんね。

 長々とレポートしてみましたがいかがでしたか?

 カラヤンを好きになって、様々な演奏をLPで聴きあさるようになり、ブルックナーもその流れで聴こうと思い、初めて手にしたのが、このBPOとの8番でした。その当時、初めてブルックナーを聴いた時、ブルックナーの良さは全く分かりませんでした。カラヤンの演奏でも感動は覚えませんでした。同じ時期、バーンスタインマーラーの5番を聴いた時は鳥肌が立ったのを覚えています。その後、ブルックナーの7番に出会い、ブルックナーを愛好するようになりました。その7番は前回取り上げたVPOとの演奏でした。歳を重ね、ブルックナーをしっかり聴くようになってから、再びBPOとの8番を聴きましたが、そこまでビビビっとはきませんでした。一方、大学時代にCDショップでVPOとの8番を何気なく購入し、聴き終わった時にしばらく動けなかったことを今でも覚えています。今回も先入観なしに比較したつもりですが、初めてこの曲を聴いた印象と20年以上たった今と意外に印象が変わっていなかったようです。ファーストインプレッションも馬鹿にならないなと思いました。

 今回は上記の2つの演奏比較でしたが、個人的に1966年の来日公演のライブ録音も面白いと思っています。正確さや緻密さ、VPOのような温かみはないかもしれませんが、推進力があり、しかもパワフルな演奏です。人によっては古きよきBPOサウンドと表現するかもしれませんね。2つの演奏と違う楽しみ方ができると思います。是非聴いてみて下さい。

             f:id:karajanjan:20211017225344j:plain

 

 8番に関しては映像作品が2種類残されています。いずれもVPOとの作品です。1つは1979年の聖フローリアン教会でのライブ、もうひとつが1988年のムジークフェラインでのセッション。教会でのライブ演奏は、テンポはやや速めでアプローチはBPO版に近いかもしれません。VPOをかなり鳴らそうとリードしています。残響が多く、時よりテンポが危うくなりますが、コンサートマスターが必死に動いて演奏を立てなそうとする場面が見受けられて面白いですよ。

 次回は9番の比較です。お楽しみに♪