karajanjanの日記

カラヤンについて語りましょう

ブルックナー比較 ♪第9番♪


ブルックナー
比較第3弾!(part1 1楽章)

今回は第9番について、BPOとVPOの比較を行いたいと思います。ブルックナー比較は実質最終回(part1)です。(他の交響曲はこの2つのオケの比較ができないもので)

 

 9番はご存知のように、3楽章までしかない交響曲です。第4楽章はわずかなスケッチが残されてはいるそうですが、未完に終わっています。本当はフーガにするつもりだったらしいですが、4楽章があったとしたら、第8番同様長大な曲になっていたことでしょう。(3楽章までの状態で60分を超えていますからね。)

 

 では、9番の比較に入っていきましょう。今回比較した演奏もドイツ・グラムフォンの2つの演奏です。

                                                                                   

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 この2つの演奏は演奏された時期がとても近いので、曲へのアプローチはそう変わらないと思うのですが、BPO版はセッション録音(1975年)、VPO版はライブ録音(1976年)という違いがあるので、その点は演奏自体に大きな影響を与えているように思います。特に、このVPOとの演奏は、カラヤンがしばらくVPOと疎遠な時期が続いていましたが、そのわだかまりも解け、和解しようとしているまさにその時のザルツブルクでの演奏会のライブ録音です。ウィーンフィルの結成150年記念特別企画のCDなので、もしかするとそれほど出回っていないかもしれません。(中古CDショップでも「限定版」や「レア」と紹介されていることが多いかもしれません)

 前置きはここまでとして、本題に入っていきましょう。

 1楽章:演奏時間には約1分の差があります。BPO版は24分54秒、VPO版は24分38秒この楽章の長さからするとそれほどの差とは言えないかもしれませんが、出だしでだいぶ雰囲気が違うように感じました。BPO版はブルックナートレモロで厳かに始まります。テンポは遅めです。個人的にはもうちょっと前に進んでもらいたいかなと感じますが、重厚で落ち着きがあります。一方、VPO版は7番、8番とは趣が異なり、低音がBPOよりも前面に出てきます。また、テンポも前に進もうという勢いが感じられます。なんとなくブルックナーの重々しく荘厳な響きというよりは、いい意味で明るさがあり、宇宙全体を包み込むような壮大さがあるような響きです。別の観点からすると、オケのやる気がものすごく伝わってくるんです。ただ、金管(特にトランペット)の音がちょっと興奮し過ぎなのかオーバーブロー気味で、大音量の部分で重心が下がらないバランスになりがちです。最初のTutti(2分20秒あたりから)の頂点に向けては、BPO版はそれほどアチェルランドせず、たんたんと音楽が進みます。この頂点の部分は2拍3連やら8音符などリズムが入り乱れて、ほぼほぼグチャっとして最後の伸ばしでなんとか帳尻が合うというのがほとんどではないでしょうか。(自分が演奏した時もそうだった気がします)しかし、このBPO版は実にきちんと演奏されています。完全にリズムの違いが出ていて、ずれが正確に聴き取れるのです。恐れ入りましたと言わんばかりの構成力です。そして最後の伸ばしも力むことなく、余裕をもった音でまとめています。VPO版はというと、皆さんの想像通り、混沌とした演奏です。アチェルランドで音楽がどんどん加速し、いざ!というところでVPOの皆さんが完全に解放されて、思い思いのテンポでたっぷり吹き出します。リズムは不正確だと思います。最後の音もまとめるというより、何とかそろって短めに切られてしまいます。(笑)でもすごい推進力です。終始冷静のイメージのカラヤンですが、ライブでは燃える人だったと思います。それが思いっきり出た演奏ではないでしょうか。こういう熱いブルックナーもありかな?と思いました。

 その後の、ゆったりとした第1主題はBPO版は非常に透明感のある音です。弦セクションがものすごくいい働きをしていると思います。バランスも良く「綺麗」という言葉がふさわしい演奏だと思います。ただ、途中で登場する交響曲第7番の2楽章のテーマ(ワーグナーの死を悼むテーマ)があっさりと演奏されてしまう点が個人的に少し残念です。まあ、この曲は7番ではなく「9番」なので、7番をそこまで主張しないという解釈なのかもしれません。一方のVPO版ですが、とにかく音色が甘く、素晴らしいと思います。一旦落ち着いたのでしょうか?音の広がりが急に出てきます。先程よりもいい意味で開かれた音楽になっています。7番のテーマもたっぷりチェロが奏でてくれます。この主題に関しては私はVPO版が勝っているような気がします。

 続く第2主題、BPO版は低音が先程よりも存在感を増してきます。ここは計算された音楽構成だなと感心しました。強弱もしっかりとつけられていていい意味で冷静に聴くことができます。金管も吠え過ぎず、耳には心地いいですね。フルートの音もとても澄んでいていいと思います。VPO版はライブ録音なのに、細かい動きがかなり聞き取れる演奏になっています。ここはBPO版よりも落ち着きはありません。やはり冒頭同様、前に進もうとする音楽になっています。しかし、ホルンがとてもいい味を出しています。ウィンナーホルンの独特な音色がバランスの中核を担ってしっかり響いています。逆にトランペットの音がちょっと短く感じます。もう少したっぷり響いた方がいいかな?と思ってしまいました。

 15分30秒あたりのアーフタクトで金管が飛び込む部分は、VPO版は全然揃わないんです。中途半端な勢いで飛び込んできます。どうしたんだろう?と思ってしまいました。もしかするとトランペットは前半に飛ばし過ぎて、ばてたのでしょうか?BPO版はといいますと(15分50秒あたり)実にきっちり入ってきます。スタジオ録音という事情はありますが、こういうところはBPOは本当に職人技ですね。安心して聴くことができました。

 このあとは主題を繰り返しながら進み、いよいよコーダです。BPO版はとにかく堂々と音楽が進みます。一本の糸でずっと最後までつながっているような細かい動きも手に取るようにわかります。金管のリズムは非常にかっちりとしていて、まさに「縦の音楽」と言ったところでしょうか。響きも一切濁りがなく、冒頭に述べた通り、透明感あるブルックナーです。VPO版も意外にすべての細かい動きが鮮明に聴き取れるバランスです。ライブでここまでとは恐れ入るといった感じです。リズムは比較的BPOよりは緩く、勢いを感じさせます。(決してリズムが甘いわけではありません)テンポは速めです。完全にハモっているわけではなく、少し混沌とした響きなのですが、それがかえって「The ブルックナー」といったまさにオルガントーンだと思いました。

 

 ちょっと熱を入れてじっくり聴きすぎてしまったもので、本日は第1楽章のみのレビューとなってしまいました。近日中に2,3楽章のレビューを行いたいと思います。

 

 映像作品に関してはBPOとの演奏が1985年、VPOとの演奏が1979年で残されています。第1楽章に関しては今回のCDでの印象と同じように思いました。ただ、この映像作品はともにライブ録画です。やはりライブということもあり、両方危ない箇所が存在します。それを含めてレポートしていきますね。お楽しみに♪