karajanjanの日記

カラヤンについて語りましょう

ブルックナー比較 ♪第9番♪(part2 )

ブルックナー比較第3弾!(part2 2・3楽章)

 

 今回は交響曲第9番の第2・3楽章の比較を行っていきたいと思います。

 

 2楽章は3拍子です。聴いていると何ともない3拍子なのですが、譜面上、1拍目からのスタートではなく、3拍目から始まる楽章です。なので、実際演奏すると、とても合わせづらい楽章なんです。拍が合わず、ばらばらになってしまう危険性をはらんだ楽章です。(同じように、1拍目から音楽が始まるように聞こえて、そうではない交響曲にはシベリウスの1番やサンサーンスの3番がありますね)

 そんな2楽章ですが、さすがカラヤンBPO&VPOです。崩壊の「ほ」の字も感じさせない素晴らしい演奏です。演奏時間はBPO版が10分37秒、VPO版が10分46秒ですが、VPO版は実質10分30秒で演奏が終わり、その後の16秒は余韻として入っているだけなので、ほぼ演奏時間は同じと考えていいでしょう。しかし、1楽章同様、だいぶテイストが違います。VPO版の方が全体的に早めにしかもエネルギッシュに聴こえる気がします。(これはpart1で紹介しましたが、こちらがライブ録音という環境が影響しているかもしれません)重厚な第1主題は1音1音しっかりと鳴らし重戦車のように進んでいきます。比較的マルカートのような短めの響きで統一されてスタイルです。コーダ直前の大合奏ではトランペットが勢い余って音を大外ししますが、この爆演なら許されるかな?と思います。積極的なミスとでも言いましょうか。続く中間部のコーダはチェロが濃厚な響きでメロディーを奏でていきます。ここもテンポはやや前向きに感じられます。音楽的にかなりディープな(こってりという表現も有りかと思います)味付けだと思いますが、個人的にはこういうブルックナーも悪くないと思いました。

 一方のBPO版ですが、第1主題はお得意のレガート的な演奏です。長いレガートの低音が音楽をリードします。低音が鳴ってはいるのですが、レガートな分、エレガントな雰囲気を醸し出しており、重戦車級のVPOのスタイルとは違う印象を受けます。ティンパニもソフトに音がする柔らかめのマレットを使ってるかもしれません。テンポも音が長い分若干遅く感じられました。コーダ前のまとまりもVPO版よりも落ち着いています。コーダもややゆったりした印象を受けました。その分、木管楽器の細かな動きが手に取るように分かります。よくもここまで細かく聴き取れると思うほどしっかりとバランスがとられています。これはスタジオ録音だからできる技かもしれませんね。

2楽章は勢いという面ではVPO版、精密という面ではBPO版が勝っているのではないでしょうか。

 

 最後の第3楽章です。BPO版が25分51秒、VPO版が24分19秒とありますが、実演部分は23分30秒で残りは終演後の拍手です。2分30秒近く違うので、この差はちょっと大きい気がしますね。

 まずBPO版ですが、全体的にゆったりしています。オクターブで奏でられる冒頭は「深淵」という言葉がぴったりのような気がします。深い音で始まり高音まで歌い上げられています。低音がずっと鳴り響いてフレーズを貫ています。その後の金管もやはりバランスが絶妙なサウンドです。最後の音の処理がやや短めです。一方のVPO版は少し速めのテンポではありますが、音楽の深さは同じようにあると思いますが、音が輝かしい気がします。悲壮感に漂うサウンドではなく、いい意味でプラスの気持ちが感じられる明るめのサウンドなんです。それに続く金管はこちらは少し長めに処理されています。低音はこの楽章ではそれほど強烈には響いてきません。3分あたり、ワーグナーチューバのハーモニーが登場しますが、ここはVPO版のサウンドの温かさが特徴的です。「ポー」(カタカナでは表現できませんが)という温かなサウンドが心に届いてきます。BPO版もハーモニーは綺麗です。バランスもこちらの方が整っているかもしれませんが、若干無機的に聴こえるかもしれません。

 第2主題はどちらも素晴らしいのですが、ここでもBPOは低音を響かせ、ゆったりとした足取りで音楽を進めていきます。特にヴァイオリンが美しいし仕事をしていると思います。ここはかなり流れるようなしなやかで力強い部分ですが、一般的に言われる過度なレガートではなく、ごくごく自然なレガートで心地よいと思います。カラヤンが指示したわけでも、BPOが示し合わせて合わせたわけでもなく、本当に両者が自然に音楽を奏でているのではないでしょうか。VPO版はBPO版よりもヴィオラ・チェロの内声が充実しているように感じました。いい意味で少し厚みのある腰の据わった響きがしてきます。この部分は本当に甲乙つけがたい演奏だと思います。

 中間部に差し掛かり、金管が咆哮する部分ですが、ここはテンポがかなり違います。VPO版の方が圧倒的に速いです。ただ、音楽的に速すぎかというとそんなことはないと思います。むしろ人によってはBPO版の方がもたついていると感じるかもしれませんね。(この楽章はとにかくBPO版が終始ゆったりと構えた演奏です。)私はここのBPOのテンポは妥当だと思います。一歩一歩、着実に音を刻み込むような壮大な響きです。

 ここまで聞き比べて思ったのですが、(この時点で約1分30秒の演奏時間の差が生じています)BPOがゆったり、VPOがやや速めというのは、やはりライブかそうではないかが大きい気がします。VPO版はその場の雰囲気、プレーヤーの息の長さ、会場の興奮が相まって、あのカラヤンをしても興奮を抑えきれていない状態ではないかと。Part1で述べましたが、この演奏会は久々のVPOとの共演ということもあり、喜びに満ちていたと思います。ですから、本来、冷静に音楽を奏でることのできる両者が、共に興奮状態だったような気がします。その結果がこのテンポなのでしょう。BPO版はいい意味で無駄な興奮はなく、むしろ冷静沈着に無垢の精神で向き合ったブルックナーだったのではないでしょうか。したがって、息が長く、フレーズをたっぷりとる落ち着いた響きの演奏になったように思われます。この考察が正しいかは分かりませんが、後半の神の声とも思えるコラールの部分で、まさにこの違いが出ているように感じました。BPO版は澄んだ完璧(は言い過ぎですが)なハーモニーでコラールを奏でます。天から光が差すようです。本当に透き通ったサウンドが降ってきます。ところがVPO版は響きに血が通っているんです。多少、ハーモニーは濁っていますが、思いがこもった音なんです。天から降ってきたBPOサウンドとは違い、こちらから神に向かっての祈りが感じ取れる気がします。音も若干膨らませ気味。でも人間味、温かみがあって素晴らしいこと!ここだけ、テンポがBPOより遅く感じられるくらいです。

 こうして、最後のコーダに突入し、曲は静かに終わっていきます。終曲部分はどちらも秀演です。最後のハーモニー、低音のピッチカートが印象的。曲が終わったら、しばらく静寂を味わいたいと思ってしまいます。(VPO版は比較的すぐに拍手と歓声が入ります)

 以上が第9番の比較レポートでした。個人的には人間味あふれたVPO版が好きです。曲を冷静に楽しむ、分析したいときはBPO版を聴いています。皆さんはどちらがいいと思うでしょうか?是非、聴き比べてみてください。

 

 さて、この9番はBPO、VPOそれぞれ映像で残されています。BPO版が1985年の「万霊節」メモリアルコンサートのライブ、VPO版が1978年のムジークフェラインザールでのライブです。

 

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 DVDの解説によると、このVPO版の9番はカラヤンがいたくお気に入りで、商品化することを喜んでいたそうです。演奏はCDのVPO版よりも更にスピーディーなテンポどりです。推進力にあふれた演奏ですが、その分揃わないところも散見されます。なんとかフェルマータでまとまるといった印象もありますが、確かに活気にあふれる演奏です。カラヤンの指揮自体もダイナミックです。こんなに大振りなんだとちょっとびっくりしました。

 一方のBPO版はライブではあるもののVPO版よりも全体的に大人しめの印象です。カラヤン自身、見えないようになっているサドル型の椅子に腰かけての演奏なので、指揮の動き自体が晩年の手先を少し動かすスタイルになっています。決して悪い演奏とは思いませんが、1楽章の後半、金管が大音量で鳴らす場面で、トランペットが全く違うテンポで吹き出し、あわや空中分解しそうな場面があります。その時、カラヤンのアップが映し出されるのですが、ちょっと困った顔をしているような気がします。しかし、さすがはカラヤンベルリン・フィルのコンビです。そのあと何事もなかったかのように立て直し、また深淵な響きに戻っていきます。このライブの方がBPO版のCDよりもテンポは若干速いような気がします。やはりライブとなると、あのゆったりしたテンポはちょっときついのかもしれませんね。

 

 というわけで、3回(実質4回)にわたるブルックナー比較、いかがでしたでしょうか?次回以降、違った視点からカラヤンを考えてみたいと思います。何か面白い情報をお持ちでしたら、是非コメント欄にお願いします。