明日から12月、今年も残すところあと1カ月となりました。歳月が過ぎるのは早いですね。
さて、今月はベートーヴェンの7番が取り上げられることが多いと綴りました。残念ながら今週はなかったように思います。ですが、せっかくですので、今月最後の記事はやはりこのベートーヴェンの7番を話題にしたいと思います。
今回取り上げるのはこの演奏です。
これは1977年にカラヤンとベルリン・フィルが来日した際のベートーヴェンツィクルスです。TOKYO FMから発売されました。発売当初は、秘蔵の録音のお目見えということで、カラヤンファンでなくてもこのツィクルスを購入して耳を傾けたようです。録音に関してはライヴということもあり、多少事故が起こっていたとライナーに記されています(特に第9番はマイクの1本が駄目になり、残ったマイクでなんとか録音できていたとのことです)。そのため、諸々修正が加えられてはいるようですが、ライヴのカラヤンが楽しめるCDだと思います。
CDとしては、「1番&3番」「2番&8番」「4番&7番」「5番&6番」「9番」の交響曲のCD5枚とワイセンベルクをソリストに迎えたピアノ協奏曲3番&5番のCDが発売されました(後にすべてがセットで販売もされています。そのセットにはミニ写真集がついているとのことですが、分売で全て買ってしまっている私は、カラヤンが好きだとはいっても、写真集のためにセットを再購入はしませんでした)。
このCDの7番を初めて聴いた時、衝撃が走りました!一瞬心臓が止まるかと思うくらいビックリしたのを今でも覚えています。これはこのCDが発売されてすぐに話題となったので、ご存知の方も多いかもしれませんが、自分にとって忘れられない出来事だったので、今回、紹介しておきます。1楽章、Adagioがずっしりとした音でスタートします。少しすると木管やホルンとともにオーボエがソロを奏でていきますが、ここで、「あれ?オーボエおかしくない?」とこの曲を知っている人なら誰でも気が付くミスが発生します。完全に出るタイミングを間違ってしまい、演奏が崩れてしまいます。オーボエは間違いに気づいていないのか、どうしようもなくなってしまったのかは分かりませんが、修正して吹くことなく、そのまま吹き続けます。「このままではまずい!」と心配になるのですが、その後、急に収まるべきところに収まるとでもいいましょうか、ベルリン・フィルのあのアンサンブルの緻密さが復活し、演奏は無事続いていきました。このミス以降、ベルリン・フィルは気を引き締めたといいますか、汚名返上とばかりに熱演を繰り広げることになります。この冒頭以外は集中力の高いいい演奏だと思います。4楽章の爆演ぶりは面白いですよ。この演奏を何度も聴いているので、もう冒頭のミスをそれほど気にすることなく聴くことができるようになりましたが、初めて聴いた時のビックリ加減は、クラシック音楽を聴いている中では1番の驚きだったかもしれません。アマチュアでも、あの部分で拍を間違えることはそうないと思うので、会場で演奏を聴いていた人はもっと驚いたでしょうね。
ネット上ではこのオーボエの間違いについて、「ロター・コッホ(当時のベルリン・フィルのオーボエの首席奏者)が間違った」といった記事や「コッホに代わって演奏したシュレンベルガー(新たに主席奏者として加わったオーボエ奏者)がミスした」といった記事が出ています。両方の記事に、「自分はその演奏会を聴きに行った」という表記も見られますが、人間の記憶はそう定かではないので、どちらかは記憶違いなのでしょう。また、このCDのライナーには「ベルリン・フィルといえど、思いがけない事件も時に生じることがある。その一例が「第7番」冒頭でのオーボエでのミスだろう。この曲では、1番奏者を名手ローター・コッホに代わってある若手奏者が受け持っていたのだが、その彼が緊張のあまり数え間違ったらしいのである。ライヴにはよくある話だ。」
と書かれています。ライナーには「シュレンベルガー」の名もはっきりと記されていないので、もしかするとネット上の記事が両方とも間違いで、コッホでもシュレンベルガーでもない奏者が吹いて、失敗の結果、入団試験に落ちてしまったという可能性もあるかもしれませんね。
オーボエ奏者は特定できません(特定する必要がないですよね。誰にでも失敗はありますから)が、ネットの記事で共通していたことは、カラヤンがこの奏者のミスに動揺することなく、淡々と拍をとり続け、そして自然と元の音楽に戻っていったということです。無理にガイドを出して、オケを混乱させることなく、自然治癒ではありませんが、オケが自然に正しい音楽に戻ることを信じて待っていたのではないでしょうか。こういったところは、オペラ指揮者での経験が生かされているのではないかと思います。オペラでは歌手が出を間違ったり、伸ばすべき拍を間違うことは日常茶飯事とのこと。それをいかに何事もなかったかのように演奏するかがオペラ指揮者の力量だと言われています。カラヤンにとっては大きな問題ではなかったのかもしれませんね。
ちなみに、この来日公演、演奏は今はなき普門館で行われました。普門館はオーケストラの演奏会をするには巨大すぎて向かないとされていました。(吹奏楽のコンクールではよく使われており、私も何度か演奏した思い出があります)ですが、ベルリン・フィルはこの巨大なホールを震撼させるほどの大音量でベートーヴェンを奏でたそうです。それがいいかどうかはわかりませんが。なので、録音の方もとても苦労したようです。
その努力の結晶が、このツィクルスのCDなのですが、私は、この来日公演CDの演奏はそれほど感動を覚えませんでした。カラヤンのライヴということでかなり期待していたのですが、その期待を上回る演奏には感じられませんでした。オケのまとまりが全体として緩い気がしています。これはやはりホールのせいかもしれませんね。ホールのせいでなければ、カラヤン&ベルリン・フィルの鉄壁のアンサンブルが崩れ始めた時期なのかもしれませんね。カラヤンの体調も影響していたのかもしれません。特に3番「英雄」に期待していたのですが、いまいちでした。個人的には80年代のカラヤンGOLDで発売された「英雄」の方が好きです。「英雄」に関しては、また後日、記事にしたいと思います。
まだこの事故が起きている7番を聴いたことがない方は、心して聴いてみてくださいね。知っていてもビックリすること間違いなしです。
これで、今月のベートーヴェン7番特集を終わりたいと思います♫