6月(水無月)に入りました。暑い日があると思っていると急に梅雨に入ってしますかもしれませんね。
さて、前回の続き、小澤征爾さん&ボストン交響楽団のマーラーチクルスを聴こえました♫今回は第6番「悲劇的」から第10番のアダージョまでを鑑賞しました。残念ながら、小澤征爾さんはこのチクルスに交響曲「大地の歌」を残してくれなかったので、9曲+未完の10番を聴き終えたということになります。
まず、第6番「悲劇的」ですが、以前もこの演奏の感想を少し書いた記憶があるのですが、その時の印象と今回も同じ印象を受けました。あまり曲の題名にこだわり過ぎてはいけないのかもしれませんが、そんなに「悲劇的」には聞こえない気がしました。熱量はすごく感じられる演奏なのですが、悲劇性が足りないと申しましょうか。前半の交響曲では小澤さんの丁寧な音楽づくりが功を奏していたように思いますが、この曲に関しては丁寧さが少し裏目に出ているかも入れませんね。カラヤンのように、悲劇や死を通り越した先の「美」を感じさせるような世界観があればいいのかもしれませんが、そこまでの独特の世界ではない気がしました。あと、要所要所で奏でられる和音が、私の耳にはまとまっていないように聴こえるんです。バラバラの音として聴こえてくるので、ちょっと安心して聴いていられなくなる部分が多々ありました。
7番「夜の歌」はマーラーの中で1番難しい曲なのかもしれません。何をはっきりと打ち出せばこの曲を上手く表現できるのか、少なくとも私にはよく分かりません。スコアを読んでも、他の交響曲のように音楽が頭に湧いてこないんです。なので、演奏会やTVでの放送でも、この7番で「素晴らしかった!」と思える演奏はあまり無いような気がします。小澤さんの7番も私にとってはよくわからない演奏でした。細かいところまでよく聴こえてくる演奏です。ですから、スコアを追いながら聴くと、非常に各パートが明快に聴こえてきます。でも、この曲、それだけではまとまらないようです。個々のパートがはっきり聴こえるけれども、それが全体なかなかつながってこない気がします。私の中では、スヴェトラーノフ&N響の第7番は全体として合点のいく演奏だったような記憶があります。独特の世界観があり、その中で各パートが動いていた感じでした。特に1楽章が混沌としていて難しいのだと思います。後半の楽章に進むにつれて、小澤さんの音楽性が次第に感じられるようになる気がします。自分は絶対に手を付けたくない曲の一つに入っています。カラヤンがこの7番を取り上げる意思があるという情報を得たことがありました。「なんで7番?カラヤンに合いそうな交響曲は他にあるのでは?」とその時は思っていましたが、今考えると、この難しい7番の中に、カラヤンは何かを見出していたのかもしれませんね。カラヤンの7番、聴いてみたかったですね‥‥。
さて、今回、一番面白く感じたのは交響曲第8番「千人の交響曲」です。そのCDがこちら。
このチクルスの第1弾がこの第8番でした。やはり、熱量を物凄く感じられる演奏です。この曲はとにかく壮大で、体力・気力が充実していないと指揮できない曲だと思います。体力・気力ともに有り余っているかのようなパワフルな演奏です。いい意味で、音が直線的に飛び込んできます。鋭い音の波が耳を捉えます。大編成のこの曲では、小澤さんの丁寧さが本当に良い方向に働いているのではないでしょうか。この曲は、かなり有名な指揮者でも、勢いだけで演奏しているのでは?と思わせることがよくあります(雰囲気だけで曲を作っている感じがすることがよくあると思うのは私だけでしょうか?)。でもこの演奏はそんなこと全くありません。また、第1部は素晴らしいのですが、第2部の「ファウスト」がいまひとつという演奏もありますよね。まぁ、「1部と2部のつながりがそもそもなぜ?」と思っている人も多いのではないでしょうか。そういった要素もあるので、1部と2部をうまくつながるようにまとめ上げることが難しい曲なのだと思いますが、この点、この演奏はよく考えられているなと感じました。
他の指揮者で8番を聴いている時はそれほど意識しなかったのですが、今回、この演奏を聴いて、「大地の歌」の構想がたっぷりと入っていることがよくわかりました。第2部の中間に「大地の歌」と同じ、またはそうと思わせる旋律が数回登場します。ご存知の方も多いと思いますが、マーラーはこの8番を書き終えた後、ジンクスのある第9番に着手するかどうか迷っていました。9番を書くと死んでしまうとういうジンクスにとらわれていたわけです。そこで、そのジンクスを避けるために、「大地の歌」という番号のない交響曲を作曲することになります。本当はこの「大地の歌」が第9番になってもおかしくなかったわけです。おそらく、8番を作曲している最中に、次の曲のメロディーも色々と思い浮かんでいたことでしょう。したがって、この8番の中に「大地の歌」が先取りで組み込まれたのでしょうね。マーラーは同じメロディーを違う曲でつかったりもする作曲家ですよね。また、「運命の動機」といいますか、「タタタターン」というモチーフを色々な交響曲に入れています。多くの方は、5番の冒頭のトランペットのソロを思い浮かべると思いますが、第3番の1楽章から似たような音型で金管楽器がこのモチーフを奏でます。また、4番ではほぼ「5番だ!」と思わせる部分が出てきます。ですから、マーラーの交響曲で、他の交響曲と似たようなモチーフ、メロディーが出てくることは決して珍しくはないと思いますが、「今まで、聞き逃していたなぁ」と、再発見させてくれる演奏だったと思います。
9番については以前にたくさん語っているので、今回は割愛いたします。
さあ、次はどの曲を聴こうか、考えようと思います♪