karajanjanの日記

カラヤンについて語りましょう

最高の「ボレロ」

今回は思い出の「ボレロ」について語りたいと思います。

ラベル作曲の「ボレロ」は有名ですよね。ピアニッシモでスネアドラムが叩く「タン・タカタタン・タカタタッタ・タン・タカタタン・タカタ・タカタタカタ♪」のリズムをずっと繰り返し、オーケストラは徐々にクレッシェンドして、約15分の曲のクライマックスでフォルティシモまで盛り上がって終わる。実に単調なのに、実に魅力的な曲です。ラベルのオーケストレーションが素晴らしいですよね。

さて、この曲、実は演奏がとても難しい。

まず、技術的な面で。各メロディー、基本的にソロになっています。音域的にきついパートもあります。なので、まず、ソリストがしっかりと吹いてくれないと曲が成り立たなくなってしまうんです。この曲であるのが、誰か一人がミスをすると自分はミスしてはいけないと余計に緊張し、その後のソロが次々と失敗していくというケース。プロと言えどもこの曲のソロは意外と嫌なようです。特にトロンボーンが難しいと言われていますね。しばらく休みで、いきなりハイトーンでソロが待ち構えています。同じ金管族として本当に大変だと思います。

次に解釈面。先程書きましたが、同じリズム、同じメロディーをずっと繰り返すわけです。飽きられないようにするにはどうするか考えなければいけない。しかし、譜面に書かれていない勝手なことをしては、それはそれで問題だと思います。個人的によくないと思っているのは、最後に向けて少しずつ、長いクレッシェンドをかけていくのではなく、曲の途中でクレッシェンドの大きさを変えてしまい、そのフレーズだけちょっと盛り上げてしまう演奏。この解釈は意外に多くなされているように思います。譜面に忠実にという観点からすると間違いだと思うんです。ですが、どの曲も完全に譜面に忠実という演奏はほぼないと思うので、多少の膨らましは許容範囲なのかもしれませんね。でも、私が自分で指揮をした時は、できたかできないかは別として、曲の最後に向けて一定のクレッシェンドで演奏するよう団員には説明をしました。

こんな難曲ですが、私の今までのベスト「ボレロ」は1989年来日したリッカルド・ムーティ指揮・フィラデルフィア管弦楽団の演奏でした。この様子はNHKで放送されました。当日のプログラムは、ベートーヴェン交響曲第3番「英雄」、ラベル「スペイン狂詩曲」、そしてこの「ボレロ」でした。この放送を観終わって、興奮のあまり寝付けなかったことを記憶しています。ビデオにもとって、何回も見ましたね。この演奏に触発されて、高校時代に吹奏楽で「ボレロ」にも挑戦したんです。

さあ、この演奏ですが、とにかくソリストがうまいんです。音色が明るくてとても楽しく聴けます。指揮するムーティもとても楽しそう。その雰囲気が全体に伝わっている、そんな演奏です。そして、冒頭から最後まで、一直線のクレッシェンドで形作られている。私の理想とする「ボレロ」そのものだったような気がします。ムーティはその後、活躍の場を広げ、ウィーン・フィルともこの「ボレロ」を演奏し、その様子がやはりNHKで放送されました。こちらの「ボレロ」はといいますと、ちょっと曲をいじり過ぎている感じを受けました。ウィーン・フィルの奏者のソロはもちろん素晴らしいのですが、そえぞれのフレーズの中でクレッシェンドをかけたり、メロディーの最初に少し音量を落としたりと、かつてフィラデルフィア管弦楽団でやってくれた緻密な一定のクレッシェンドはそこにはありませんでした。即興的で面白い演奏ではありましたが、私はやはりあのフィラデルフィアとの演奏の方が素晴らしかったと思います。

このフィラデルフィアとの「ボレロ」。完璧だったかというと、実はそうではなかった。先程「トロンボーンが難しい」と書きましたが、この演奏でもトロンボーン奏者がちょっとだけ音をひっくり返してしまうんです。でも、そんなミス、どうでもいいくらい音色が素晴らしいんです。甘い音色で、こんな音がトロンボーンからするんだ!と度肝を抜かれたのを今でも覚えています。終演後のカーテンコールでも、このトロンボーン奏者に対しては特に大きな拍手と「ブラヴォー!」の声が上がってました。誰もがあの音色に酔いしれたのでしょう。

最後の打楽器もかっこよかったです。TVで銅鑼が大写しになったのですが、大太鼓と銅鑼を一人の奏者が担当し、かっこよく叩いていました。

というわけで、わたしにとってのベスト「ボレロ」はムーティフィラデルフィア管弦楽団の演奏です。

 

ムーティ以外にでは、カラヤンの演奏も好きです。カラヤンの「ボレロ」は3種類所持してます。

           

この2種類がCDです。どちらもベルリン・フィルとの演奏ですが、左側のCDは1971年の録音、右のCDは1985年~1987年の録音です。カラヤンの解釈は、私が理想としている、曲の最後に向けて一直線のクレッシェンドをするパターンだと思います。フランス音楽ではありますが、どちらもカラヤンレガートとでも言いますか、かなり音が長く続いている演奏です。よりその傾向があるのが左側の古い録音ではないかと思います。その分テンポも若干遅いです。こちらは16分かかっています。新録音は15分30秒くらいです。15分以上かかる演奏はもしかすると遅い部類に入るのかもしれませんね。よりかっちりと演奏しているのは右側の新録音です。古い録音の「ボレロ」はソリストが少し遅れ気味といいますか、リズムよりも後から音が出てくる感じがするので、そういった意味でも遅く聴こえるのですが、丁寧に吹こうとする意志が感じられ、私は個人的に古い版の演奏の方が好きですね。

この他に、カラヤンは映像で「ボレロ」を残してくれました。それがこのDVDです。

              

この演奏は1985年のジルベスターコンサートを収めたDVDです。ショートピースを集めてのコンサートで、その中で「ボレロ」を演奏しています。演奏スタイルとしては、上記の新盤の録音とほぼ同じテンポ、同じ解釈ではないかと思います。ベルリン・フィルのソロはやはり上手ですね。

この映像で気になるのはカラヤンの指揮ぶり。以前の記事で、指揮棒を持つのか持たないのかについて綴ったことがありますが、なぜかカラヤンはこの「ボレロ」だけ指揮棒を持たずに指揮を始めます。そして、曲の最後まで指揮棒なしで通します。合唱が入っている曲やバロック音楽に関しては指揮棒を持たないケースが多いのですが、この「ボレロ」に関しては、なぜ指揮棒を持たなかったのか謎が解けません。カラヤンは来日公演で何度か「ボレロ」を取り上げています。もし、公演を聴きに行かれた、あるいはベルリンやウィーンでカラヤンの「ボレロ」を生で聴いた方がいらっしゃれば、その時、指揮棒を持っていたのかいなかったのか、お教えいただけると嬉しいです。

ボレロ」に関しては、小澤征爾&新日フィルで「ボレロ」、ベートーヴェン交響曲第6番「田園」というプログラムを聴きに行った思い出もあります。本番でも小澤さん、「ん~♫」と唸っていましたよ。「ボレロ」では小さな部分から声が漏れ聞こえてました。「田園」も要所要所で唸り声が聴こえましたね。でも、この2曲、静かな部分は純粋にオケの音を楽しみたいものですね!

本日は以上です。皆さんにとっての最高の「ボレロ」はどの演奏でしょうね?