karajanjanの日記

カラヤンについて語りましょう

ベルリン・フィル日本公演2023演奏会放送

キリル・ペトレンコベルリン・フィルの日本公演の模様が放送されました。ご覧になられた方も多いのではないでしょうか。速報ではありませんが、今しがた観た放送の感想をさっと述べていきたいと思います。

正直に言うと、ペトレンコという指揮者はあまり聴いたことがなく、ベルリン・フィルのラトルの後継者として発表された時は驚きました。録音もあまりしていないとのことだったので、CDも持っていません。映像といってもほとんど見たことのない方でした。そんなペトレンコとのベルリン・フィルの演奏、どんな感じになるのか、かなり楽しみでした♫

本日放送されたプログラムは

1.モーツァルト交響曲第29番

2.ベルク:管弦楽のための3つの小品

3.ブラームス交響曲第4番

でした。

1曲目のモーツァルト。そう、カラヤンが最後の来日公演でチャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」とのプログラムで演奏した曲です。以前、私の記事でも紹介しましたが、カラヤンが恐らく好きだった交響曲だと思われます。その曲を初来日公演でぶつけてくるとはかなり衝撃的です。演奏スタイルはピリオド奏法とまでは言わないまでも、アクセントがやや強めで、輪郭をはっきりとさせるスタイルだったと思います。ビブラートも控えめで、奏者によっては長い音をノンビブラートで演奏していました(ピリオド奏法で演奏する場合、ビブラートをかける人とかけない人がいて、いつも不思議に思います。どちらかに統一しないのですかね?それとも、かけないと決めていてもついいつもの癖でかけてしまうのか。今度知り合いの演奏家に聞いてみようと思います)。なので音がかなりきつく聴こえてくる部分がありました。また、ダイナミックスレンジをものすごく意識した演奏だったと思います。ppからffまで、またクレッシェンドなどとても幅がありました。聴きようによっては大げさに感じる人もいたかもしれませんね。カラヤンと比べると、カラヤンの方がダイナミックスレンジはないのですが、オケの圧力と言いますか、音楽の内面の部分から迫ってくるような豊潤さが感じられたのですが、ペトレンコはそういったアプローチではなく、楽譜に忠実なすっきりとしたモーツァルトといった印象です。3楽章は私の理想よりかなり速いテンポでした。確か、バーンスタインも似たようなテンポだった気もするので、今回のペトレンコのテンポが一般的なのかもしれません。4楽章はattacca(3楽章と切れ目なく)のような感じで突入していました。テンポも少し速めでしたが、この楽章はピリオド奏法的な感じと、爽快感があいまって、よかったと思います。

全体的にはカラヤンベルリン・フィルの1988年の演奏とは(当然と言えば当然ですが)全く違う響きの面白い演奏だったと思います。

2曲目のベルク。やはりベルリン・フィルの管楽器はうまいですね。トロンボーンはハイトーンを綺麗に演奏していました(奏者にとってはとんでもなく嫌な部分だと思います)。モーツァルトとは正反対の現代音楽ですが、ペトレンコの明確なタクトさばきとあっている曲なんだと思いました。不協和音が不協和音としてきちんと聴こえてきました。しかも嫌な不協和音ではなくです。カラヤンもこの曲を演奏、録音していますが、いかに綺麗に不協和音を響かすか(難しい表現ですね)を課題としていたそうですが、そういうアプローチではなく、しっかりと美しい和音とそうでない部分の作り分けをしていたと思います。しかしながら、ベルリン・フィルサウンドの素晴らしさが加わり、不協和音が耳に痛くなり過ぎずに聴こえてきたと思います。

各楽章の弦楽器のソロも良かったと思います。この曲でも、ダイナミックスレンジの幅が広くとられていて、とてもメリハリのある演奏だったともいます。現代音楽は一歩間違えると何をやっているのか分からなくなってしまい、何をやっているのかが分からないことをよしとする人もいるようですが、個人的には、何をやっているか分からないのはどの時代の曲でもよくないと思っています。現代音楽が苦手な人でもある程度きちんと聴ける名演だったのではないでしょうか(実は私は現代音楽はあまり得意ではないんです♫)。

3曲目のブラームス。部分的には昨年末のハイライトなどで流れていました。

1楽章の出だしはとてもしなやかで素晴らしかったです。ここで触れておきたいのはペトレンコの指揮ぶり。基本的にはガッシりと振るタイプだと思っていました。少しだけ指揮姿を見た時には力強く、顔を真っ赤にして激しめに指揮していたので、ムーティの若かりし頃とはまた違った力強い指揮者だと思い込んでいましたが、意外にしなやかなタクトさばきも見せていて、時には振るのをやめて、と思ったら、指揮棒を上から振りかざしたりと、指揮自体もメリハリのある振り方なんだと思いました。結果、そのメリハリが曲にも表れていたと思います。リズム、テンポを非常に意識した曲作りだったと思います。急にレガートでびっくりするところもありましたけど。

2楽章はとにかく抑えていましたね。あまり大きな指揮はせず、左手で盛り上がりそうなベルリン・フィルを制止する場面がありました。大きなフレーズで曲を流していこうとする姿勢が随所に伺われました。この楽章ではモーツァルトと違い、たっぷりとビブラートでうたわせていました。後半のティンパニのクレッシェンドを強調しているのが面白かったです。

3楽章は予想通りのハイテンポ。指揮ぶりも、こめかみの血管が切れんばかりの大振りでオーケストラをリードしていました。後でも述べますが、男っぽい強い響きのする楽章だったと思います。この楽章はリズムをはっきりと打ち出し縦の音楽を堂々と創り出していました。それとは対照的に中間部のホルンのメロディーは甘くて素晴らしかったです。主席のシュテファン・ドールが美しく奏でていました。

4楽章。あれだけ盛り上がって終わった3楽章の後、どんな音を出すのかと耳を澄ましていると、抑え気味にトロンボーンをメインとした金管の丁寧な和音で始まりました。大きめに勢いだけで始まってしまう演奏も多々ありますが、実際の演奏会で、あの高揚した3楽章のあと、落ち着て寂しげな和音を創り出せるところはさすがと思いました。この楽章でも力強さは健在で、左手のこぶしを握り締めて、強く抜けない音を要求していました。その分、後半の静かな部分の音量の小ささがより引き立っていました。小さい音でも、決して弓を短く使うのではなく、比較的きちんと弾きながらも小さな音を出していたように思います。バランスも良く、力強くも、一音一音聴きとれるコントロールの聴いた名演だったと思います。

アンコールはなかったですね。

全体的にですが、このジェンダーレスな時代にふさわしくない言い方かもしれませんが、非常に男性的な強い音をベルリン・フィルから引き出していたのではないかと思います。ペトレンコの髭をたくわえた風貌に影響されている部分もあるかもしれませんが、前任者のラトルにはなかった響きだと思います。アバドブラームスも響きが重く、好きでしたが、その響きでもない。より直線的な音で攻めてくる感じがします。カラヤンのゴージャスなサウンドともまた違った強い響きです。カラヤンは音が煌びやかでなおかつ太いサウンドがしますが、ペトレンコは飾り気を排除して一本の筋をきちんと通して音を構築している感じがしました。それにしても、あれだけ激しく振って、体力があるなぁと脱帽です。放送を見ていると、自分の知っているメンバーがまだ演奏していましたが、新たな響きのベルリン・フィルを聴くことができたと思います。今後、どんな曲を取り上げて私たちに聴かせてくれるか楽しみですね。

今日の午後はこの演奏と比較のため、カラヤン最晩年のブラームス交響曲第4番を聴いていました。そのCDがこちら。

               

この演奏は何度聴いても飽きないです。今後、ブラームス交響曲の聴き比べやベスト盤の紹介もしていきたいと思います。