karajanjanの日記

カラヤンについて語りましょう

お気に入りのミサ曲

今回は私のお気に入りのミサ曲を紹介します。

ミサ曲で好きな曲というと、多くの方が「レクィエム」をあげるのではないかと思います。私もモーツァルトヴェルディのレクイエムは大好きです。ですが、今回はシューベルトのミサ曲を紹介したいと思います。

シューベルトはミサ曲を第6番まで作っています。他にもドイツ・ミサ曲などあと数作品作っているようです。その中で私がお気に入りなのが「ミサ曲第6番変ホ長調D950」です。世間的にもこの6番は名曲と言われているそうです。

私がこの曲に出会ったのは確か中学生の頃です。父親はもともとカール・ベームブルーノ・ワルターが好きだったのですが、当時、頭角をあらわしていたクラウディオ・アバドが気になっていたようで、アバドウィーン・フィルベートーヴェンのCDをよく聴いていました。そんな中、父親が「図書館でこんなCDがあったから借りてみた。よかったら聴いてみて」と言ってきました。そのCDがこちらのCD。

              

1980年代のアバドウィーン・フィルと精力的に演奏をしていました。(そんなアバドがまさかカラヤンの次のベルリン・フィルのシェフになるとはこの時は全く思っていませんでした)比較的ゆったり目のテンポをとる指揮者だなと思っていたので、当時はあまり好んで聴いてはいなかったように思います。ですが、このCDを聴いてアバドに対する印象が大きく変わりました。

このミサ曲第6番の演奏を聴いてまず思ったことが、とても丁寧な演奏であるということです。実に緻密に音楽を作っているという印象を受けました。1音1音こだわって響きを作っていると思います。音がとても暖かく、心地よい演奏です。特に音の終わり、フレーズの終わりをものすごく大切に扱っています。宗教曲は必ずと言っていいほど合唱をともない、精神的な作用もあってか気持ちがやや入りすぎて音楽が荒れてしまったり、勢いに任せてしまうケースがある(それはそれでよく作用することもあるので、必ずしもマイナスの要因ではないのですが)のですが、この演奏は冷静さを保ちつつも熱い演奏のように思います。これはアバドの音楽をコントロールする力の卓越さを物語っている演奏です。

冒頭の「キリエ」はとても穏やかな雰囲気で始まります。管楽器が温かいゆったりとした音色を奏でています。(さすがウィーン・フィルという音色です)合唱団(ウィーン国立歌劇場合唱団)も素晴らしいハーモニーを聴かせてくれます。とにかくバランスが絶妙です。

2曲目「グローリア」は合唱団からスタートします。明るく、しかも重みのある合唱が響き渡ります。男性パートの支えるバランスが本当に素晴らしいと思います。(ソプラノも上手ですよ!)それをサポートするようにオーケストラが流れるように加わります。とても迫力のあるグローリアです。その後はトロンボーンが荘厳な響きで流れをリードしていきます。その後再びグローリア冒頭のテーマ現れ、展開していきます。

3曲目「クレド」。この曲も合唱団から始まりますが、グローリアと違い、小さなゆったりとした響きから曲が展開していきます。P(譜面上はPかPPか分かりませんが)でのソプラノの響きが素晴らしいと思います。音は小さくても、音程が狂うことなく、しっかりと遠くまで届くサウンドです。続くテノールのソロも優しく落ち着いて聴くことができます。珍しく2人のテノールソロの掛け合いです。一般的にはソプラノ・アルト・テノール・バスが各1人ずつ、またはソプラノとテノール、ソプラノとバスといったミサ曲が多い中、テノールが2人用いられているのは面白い編成ですね。その後はティンパニトレモロのクレッシェンド後に再び合唱団が活躍します。トランペットも華やかにファンファーレを奏でて曲を締めくくります。

4曲目「サンクトゥス」。かなり暗い曲調です。静かに始まったと思いきや、弦の激しいトレモロの後、短調で重たい響きを作りだしています。ですが、フレーズの最後の和音で転調し、長調で穏やかなメロディーを奏でていきます。そして、テンポを上げて華やかに曲を終えていきます。このサンクトゥスは3分ちょっとの短い曲です。

5曲目「ベネディクトゥス」は弦楽器の導入後、4重唱が始まります。ここではバス(ロベルト・ホル)の響きが秀逸です。地から声が聴こえてくるようで鳥肌ものですよ♫目立たないのですが、アルト(マリャーナ・リポフシェク)の支え方も素晴らしいからこそ、響きが豊潤に聴こえるのだと思います。間に合唱を挟みながら音楽が進行していきます。ここはウィーン・フィルの弦楽器の素晴らしさも堪能できますよ。

6曲目「アニュス・デイ」は暗い響きで始まります。バスとテノールが歌いはじめ、それにアルト、ソプラノがどんどん加わってきます。アニュス・デイというと「神の子羊」なのでもっと明るく穏やかなイメージを持ちがちですが、このシューベルトのアニュス・デイは随分と暗い音楽です。実はモーツァルトのレクィエムのアニュス・デイも暗いですよね。しばらく暗い音楽が進むと、冒頭のキリエを思わせる穏やかな曲調の合唱に変わっていきます。(モーツァルトのレクィエムもアニュス・デイが終わると冒頭のキリエの音楽が再現されますね。それを意識したのかもしれませんが)そして、ソリストの四重唱が現れます。このバランスも見事です。合唱団が加わった部分でも、ソリストが合唱団に埋もれることなく、歌詞もしっかりと聴き取れます。再び暗いメロディーがテンポを速めて奏でられますが、すぐに長調に転じて、グレゴリオ聖歌を思わせるような素朴(素朴と書きましたが、和音は複雑で不協和音も混じっています)響きの後、浄化されたような温かい和音で終曲を迎えます。

こんな素晴らしい演奏ですが、これが驚くことにライヴレコーディングなんです。第10回万聖節記念コンサートでのライブレコーディングという記載があります。多少の直しはあるかもしれませんが、ここまでライブで完璧に演奏しているなんて奇跡です。多少ミスがあった方がライブ感があるのですが、これほどまでに完成度が高いライブのミサ曲は滅多に出会えないのではないでしょうか。ミスがないとかそういうレベルではなく、音楽が内包するものがとにかくすごいと思います。このCDを聴いて以来、アバドの事を意識するようになりました。

アバドとは1度お会いして、直接話したことがあります。私がベルリンに行って、ベルリン・フィルの演奏会に行きました。その時の演奏は、マーラー交響曲第3番でした。3楽章のトランペット(フリューゲルホルン)のソロは、ウィーン・フィルのトランペット首席奏者だったハンス・ガンシュだったんです。(もちろんガンシュとも色々と話をさせていただき、サインもばっちりもらいました!)終演後、運よく舞台裏に入れてもらえたので、アバドの楽屋を訪ねました。アバドは嫌な顔せずに、私(厳密に言うと、グループで訪ねたので、私たちですね)を楽屋へ迎え入れてくれました。演奏会の出来はどうだった?とか、何の楽器をやっているの?とか、来年、日本に演奏旅行に行くから、よかったら聴きに来てね!など色々と話しかけてくれました。とっても優しい方でしたよ。このCDを聴いて、あの時のベルリンの事を思い出して、このブログを綴った次第です♬