karajanjanの日記

カラヤンについて語りましょう

シューマンのピアノ協奏曲

最近、ふと中古CDショップに立ち寄った際、不思議とパッと目に飛び込んできたCDがありました。それがこのCD。

               

遠くから、何の曲で、アーティスト名も分からないのに、このCDが目に飛び込んできたんです。そして、手に取ってみると、

シューマン ピアノ協奏曲 ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ

というCDでした。この演奏の録音は、ポリーニ・エディションを買うと、ボーナスCDとしてついてるものと同様のもの。また、ドイツ・グラモフォン関係者向けにプレスされたそうです。単品CDとしては正規には販売していなかったようですが、自主制作版?なのでしょうか。インターネット等ではよく売っているようです。

兎にも角にも、曲も演奏者も分からないのに、カラヤンを引き合当てるなんて、ちょっとラッキーでした。

この録音が出回っていることは知っていたの、かなり期待をして聴いてみました♫

1974年8月15日 ザルツブルク音楽祭でのライブ録音のようです。

全体的な感想ですが、ざっくり言うと、ライブ録音だなぁと思わせる内容でした。関係者へのプレス版、エディションのボーナスCDの音質はもしかしたらもっと良いのかもしれませんが、このCDの音質はそれほど良くありませんでした。バランスがあまりよくない感じがします。

演奏時間は 第1楽章 14分31秒  第2楽章 5分8秒  第3楽章 9分55秒

(2,3楽章がタシェットで、CDとしては1つのラックとして扱われているため、2,3楽章は私のCDプレーヤーで表示されたおおよその時間です)

 

印象としては、速いシューマンだなぁと感じました。結構ポリーニが攻めている感じの演奏です。推進力があるといった表現が適切かもしれませんね。最初の和音からシューマンらしからぬ激しい音でスタートし、オケとピアノのテンポが少し嚙み合わない状態でテーマに突っ込んでいきます。オーボエやその他の木管がかなりテンション高めでソロを奏でています。ウィーン・フィルもこの演奏会にかなりハイテンションで臨んでいたのかもしれませんね。リハーサルなどから、本番は面白い演奏になると感じて吹いているのかもしれませんね。したがって、1楽章はものすごく「熱い!」演奏です。個人的には熱すぎて、シューマンを通り越して、ブラームスのような響きになっている気がしました。ポリーニは積極的に音楽を作りにいっているのでしょう。これはカラヤンを信じての結果なのか、カラヤンを無視しての結果なのかはわかりませんが、縦横無尽に奏でています。なのでオケが追い付かない部分がちらほら。最後の和音もうまく揃わずに1楽章を終えています。

2楽章は終始綺麗です。やはりここはウィーン・フィルの素晴らしさが生かされていると思います。テンポはやや速めの気はします。2楽章はピアノ上昇音型からスタートするので、ポリーニの好きなテンポで始まっているのだと思います。もしかするとカラヤンはもう少しゆったりと行きたかったのではないかと思わせるフレーズの終わり方をしています。でもこの楽章は両者がきちんと収まるべきところに収まったいい演奏だと思います。

アチェルランドがかかっての3楽章への突入は、カラヤンがかなり煽っています。もっとゆったり3楽章へ入るのかと思いきや、カラヤンが興奮しているのか、この演奏のテンポ感を統一するためにあえて速めにしたのかは分かりませんが、いつものカラヤンよりもテンポの動かし方が急激な感じがしました。しかし、そのテンポを受けたポリーニが、今度は思ったよりも速くないテンポで主題を弾き出すんです。すごい駆け引きをしている演奏だと思います。それでも、私が今まで聴いてきているこの曲のテンポにしてはやや速めだと思います。

ポリーニベームとのモーツアルトベートーヴェンのコンチェルトで、もっと無難に弾きこなすピアニストかな?と思っていましたが、意外や意外、かなり熱い方だったようです。カラヤンとはかなりバトルになっているように感じました。この演奏はだいぶテンポを動かしているアクティブなスタイルなので、カラヤンはあまり快く思っていなかったかもしれませんね。ポリーニとのシューマンはこの年以外共演がなかった気がします。初めてこの演奏を聴いた時は、まとまりのないちょっとバラバラな演奏だなと思っていましたが、聴き直してみると意外に面白い演奏でした!巷では、バックハウスカラヤンブラームスのピアノ協奏曲第2番が水と油の演奏と評されています。それぞれが自分の解釈を譲らず、個性がぶつかり合っていると言われていますが、どちらかというと、このシューマンの方が個性がぶつかり合っている気がしますが、そう思うのは私だけでしょうかね?

個人的にシューマンのピアノ協奏曲だったら、スタジオ録音ではありますが、カラヤンクリスティアン・ツィンマーマン(最近はツィメルマンという言い方が主流ですかね)をソリストに迎えてベルリン・フィルと演奏した1981年の録音の方が全体的にゆったりと堂々としていて良いような気がします。そのCDがこちら。

               

若きツィンマーマンの巧みなテクニックが光ります。(ポリーニは結構ミスタッチが多かったので。まあ、ライブなので仕方がないかもしれませんが)ピアノとオケがけんかをすることなく、バランスよく奏でられています。悪く言えばカラヤンの意図が反映し過ぎていてソリストとの駆け引きが感じられず、安全な演奏です。80年代のカラヤンは若手のソリストを多く起用し、自分の意図通り演奏させていたとも言えますね。バイオリンのムターがその代表でしょうか。(でも後に大成したソリストたちは、カラヤンの言う通り演奏させられたことはないと言っていますね)演奏時間は

第1楽章 15分31秒  第2楽章 5分26秒  第3楽章 10分38秒

ポリーニ版よりもだいぶゆったりですね。1楽章は1分も違います。若い頃からそれほどテンポが変わらないカラヤンにしてはたったの5~6年で1分も違うというのは珍しいことかもしれません。

ツィンマーマンとカラヤンに関してはちょっとした逸話があります。曲目はちょっと失念しましたが(このシューマンだったような気がします)、カラヤンベルリン・フィルとツィンマーマンがリハーサルをしていた時に、曲の最後でツィンマーマンはもっとアップテンポで弾きたかったようで、テンポを上げていきました。しかし、カラヤンはお構いなしにインテンポで振り続けています。オケはどちらに合わせるべきか思案に暮れていたそうですが、最終的にはツィンマーマンに合わせて最後の和音に入りました。カラヤンの棒を空を切ったわけです。ですが、カラヤンは特に怒るわけでもなく、「これでリハーサルは終わりです」と普通にリハを終えようとしました。するとツィンマーマンは「テンポがあっていないのでもう一度最後の部分を合わせましょう」と提案します。カラヤンは「ではもう一度」といって、最後の部分を指示して指揮を始めます。カラヤンもツィンマーマンもなんとなくテンポを察して、今度はテンポがあるところに落ち着いたようです。するとカラヤンが「今度はどうでしたか?言葉を使うとうまくいかなくなる。何も言わないほうが合うものです」と言ってリハーサルを締めました。ツィンマーマンのカラヤンを恐れない態度とカラヤンの対応ぶりを伺えるエピソードですよね。なので、ツィンマーマンとのライブ盤の音源はもしかするとかなりテンポが動くのかもしれません。

ここまで綴ってきましたが、私がシューマンのピアノ協奏曲の演奏で一番好きなものはこれ。

               

バーンスタインウィーン・フィルの演奏。テンポはカラヤン&ツィンマーマン盤とほぼ一緒(2楽章のみバーンスタインの方が遅めです)ですが、速すぎず、遅すぎずの心地よいテンポです。また、シューマンが得意と評されているだけあって、熱量もたっぷりです。ソリストとのかけ合いも楽しめつつ、変なけんか的な部分はありません。全てが自然に聴こえるこの演奏が私の中ではベストです。是非聴き比べてみて下さいね。